生き残りがかかるLiDARスタートアップ

 自動運転の開発加速とともに拡大してきたLiDAR市場であるが、2000年代当初より、Velodyneが先陣を切ってきた。VelodyneがLiDARの開発を始めたきっかけは、2004年・2005年に無人ロボットカーレースのDARPA Grand Challengeに出場したことだったと言われている。

 Velodyneが切り開いてきたこのLiDARの領域に現在は様々なスタートアップが参入し、また大手企業による出資・買収も盛んにおこなわれている。2020年現在では実に約80社ものスタートアップが確認されている。

 こうした多数の企業が参入する領域だが、一部企業に巨額資金が集まりつつあり、今後は淘汰が始まると見られる。

 今回はそうした中で、巨額の資金調達に成功してきたスタートアップを紹介する。

Innoviz Technologies

  • 設立     :2016年
  • 国      :イスラエル
  • 資金調達総額 :252m$
  • 最新ラウンド :SeriesC
  • Webサイト  :https://innoviz.tech/

 Innoviz Technologiesは、2016年創業のイスラエル発のLiDARメーカーである。すでに販売中の「InnovizPro」は産業用途で高精度が特徴なLiDAR。HPにも掲載されているが、「InnovizOne」という次世代製品は、自動車用途やUAV、工場など多様な市場向けとなっており、すでにBMWの2021年車種への採用が決定している。

 同社のLiDARは機械式のモーターを使用しないソリッドステート型となっており、MEMS(微小電子機械システム)を活用してミラーを動かす構造だ。自動運転レベル3~5までの優れた3D認識機能を保有する、とされる。

 日本では2019年9月にマクニカ社が代理店契約を締結している。

Luminar Technologies

  • 設立     :2012年
  • 国      :米国
  • 資金調達総額 :250m$
  • 最新ラウンド :Series Unknown
  • Webサイト  :https://www.luminartech.com/

 Luminar Technologiesは2012年創業の米国ベンチャー企業である。すでに250m$もの資金を調達しており、特にこの2-3年で注目を集めてきた企業。同社を有名にしたのは、CES2018で発表されたトヨタ自動車の子会社TRIが自動運転実験車「Platform3.0」である。Luminar社製のLiDARが採用されていることが明らかにされ、注目を集めた。その後Luminar社は、ロサンゼルスモーターショー2018でもボルボ社と提携で開発しているLiDARの発表を行っている。

 同社の技術の特徴は、レーザー、スキャナ、レシーバーを全てチップレベルから開発しており、レシーバーにInGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)のチップを使っている。結果として、他の競合品に比べて長距離かつ高分解能3Dセンシングを可能にしている。同社はまずは技術的な性能面を上げ、その後に量産コスト低減に取り組んでいる。2019年7月に、次世代製品のirisを2022年に量産車で商業的に発売されることを発表。このirisは従来のハードウェアに対してサイズが1/3、コストが500$程度で提供されると言われている。

Hesai Technology

  • 設立     :2013年
  • 国      :中国
  • 資金調達総額 :231.2m$
  • 最新ラウンド :SeriesC
  • Webサイト  :https://www.hesaitech.com/en

 Hesai Technologyは元々はシリコンバレーで創業され、現在は本社が上海にあるベンチャー企業。すでに数百人もの従業員がおり、製品は商用化されている。前回ラウンドのSeriesCでBoschとLightspeed Chinaをリード投資家として、134.9m$もの資金を調達。中国国内のLiDARプレーヤーで、1回の調達額としては最高となる額の調達に成功した。なお、HesaiとBoschとの関係は2017年にBosch AI Auto Acceleratorに参加し、2019年にはOpen Bosch Awardを受賞したことに遡る。このOpen Bosch Awardを受賞したのは世界で数百ものスタートアップと行っている協業の中で、Hesai含めてわずか2社のみとなっている。2022年7月にはVelodyne社とLiDARに関する長期グローバルライセンスを締結したことが発表。

 同社によると、独自技術としてレーザー光の相互干渉を防ぐ世界で唯一の「干渉防止機能付きLiDAR」であるとされており、マイクロミラーを使ったソリッドステート式のLiDARを展開。10%の反射率でも対象物を200mもの長距離で測定できるとされている。

LeddarTech

  • 設立     :2007年
  • 国      :カナダ
  • 資金調達総額 :183.7m$
  • 最新ラウンド :Debt Financing
  • Webサイト  :http://www.leddartech.com

 LeddarTechは、2007年にカナダのケベックで設立された老舗LiDARベンチャー。同社の技術の特徴は、ソリッドステート式LiDARに使うためのSoC及び信号処理ライブラリであり、SoC製品は日本においては長瀬産業と代理店契約を締結している。用途は自動車用途だけでなく、シャトルバスや商用車、ロボットなどの分野で展開が始まっている。

 CES2020では同社のLiDARがInnovation Award HONOREEに選定されており、米国の高級電気自動車メーカーのKarma Automotiveの「2020 Revero GT」に組み込まれ、デモンストレーションが行われた。

Quanergy Systems

  • 設立     :2012年
  • 国      :米国
  • 資金調達総額 :135.3m$
  • 最新ラウンド :SeriesC
  • Webサイト  :https://quanergy.com/

 2012年設立のシリコンバレーベンチャーである。すでに同社のLiDARは商用ベースで様々な市場に展開されており、顧客はマッピング、セキュリティ、スマートシティ、スマートスペース、産業オートメーション、交通機関など、多岐に渡る。出資者には自動車Tier1のAptiveや、Samsung Venturesなども入っている。

 2020年7月に発表された新製品M1では、市場に現在出回っているLiDARと比べ、低コストで最大2倍の計測レンジと高精度を実現している。今回の新製品の用途は主に倉庫、工場、その他産業の物流関連、貨物コンテナなどを想定しているとのこと。

 同社はすでに2017年末より、シリコンバレーの完全自動化された生産ラインで年産100万個の生産を実現していた、と発表しており、2018年に調達した資金で、さらなる量産化を進めていくとしている。


MEMS LiDARやFMCW LiDAR、フェーズドアレイなど、方式別の技術動向や特徴について知りたい方はこちらも参考。

参考記事:(特集) 車載LiDARの技術動向 ~種類・方式の特徴と全体像~


 以上、今回はすでに有名になっているLiDARベンチャー企業を紹介した。大手企業も含めて開発が加速する同市場であるが、実は他にも有望なベンチャー企業は多数存在しており、今後もその開発動向に目が離せない。まだ資金調達フェーズが進んでいないベンチャー企業も、当メディアで今後取り上げていく予定であるため、ぜひ参考にしてみて欲しい。