ドイツの自動車部品メガサプライヤーであるBosch社は、2019年よりOpen Bosch Awardというベンチャー企業とのオープンイノベーションの取り組みに対して表彰する活動を開始。2019年と2020年でそれぞれ2社ずつ選定しており、2020年9月の時点で合計4社の取り組みを表彰している。今回は、このOpen Bosch Awardから見える同社のオープンイノベーションの取り組みを紹介する。

Bosch社におけるオープンイノベーション

 同社とベンチャー企業との協業は、もう長く取り組まれてきている。Bosch社はOpen Bosch Award2020で、外部企業と数百件ものパートナーシップがある、と発表している。世界中にネットワークを張り、複数のローカルでのアクセラレーションプログラムや、インキュベーション施設との連携、そして毎年10数件もの投資を実行しているRobert Bosch Venture Capital(RBVC)など、様々な取り組みを行っている。

Open Innovation Awardで表彰したベンチャー企業4社

2019年に選定されたベンチャー企業

  1. Hesai Photonics Technology社(中国)~高解像度LiDARセンシング~
     中国の新興LiDARベンチャーであり、自動運転車両が周囲を高解像度でセンシングできる技術を保有している。400以上の特許ポートフォリオを持ち、他の光源からの干渉防止技術を製品に実装している。同社とBosch社のつながりの始まりは2017年に中国で実施されたアクセラレーションプログラム「Bosch AI」である。その後同社はBosch社とLightSpeed社が主導でSeriesCで巨額の資金調達を行うことにも成功している。
     
  2. Code Intelligence社(ドイツ)~サイバー攻撃を防止する~
     ドイツのサイバーセキュリティ新興企業である。ネットワークに接続されるような製品に対して、セキュリティテストを自動化して実施することで、スケーラブルなセキュリティソリューションを確立している。同社の技術により、オープンソースの脆弱性が明らかになったという。

2020年に選定されたベンチャー企業

  1. Poka Inc(カナダ)~工場労働者向けナレッジ共有システム~
     工場などの製造現場で、労働者が学習し、問題を解決し、知識をリアルタイムで共有することができるプラットフォームを開発している。製造業においては、ものづくり現場の自動化の取り組みが進むが、熟練労働者に強く依存するセグメントでの効率化や、柔軟で高度なスキルを持つ従業員の育成が難しい課題としてある。同社の技術でそうしたペインを解決するもの。
     
  2. NextNav LLC(米国)~屋内かつ垂直方向にも高精度な位置同定システム~
     2007年設立のベンチャー企業。デバイスの位置をGPSなしで、かつ屋内で垂直方向の位置同定が可能な技術を開発している。メトロポリタンビーコンシステムという独自のシステムを開発。携帯基地局に配置される地上ベースの強力な地上波により、GPSでは微弱信号となる場所でも、正確な位置同定を可能にするという。現在、同社のシステムは米国ベイエリアとワシントンDCで展開されている。2020年1月には約132億円の資金調達を実施したと発表。本格的な商用展開に向かっている。
ー 技術アナリストの目 ー
「難易度が高い大企業とベンチャーの協業を成功させる仕組みがある」

 Bosch社は長年、こうしたベンチャー企業との協業に積極的に取り組んできており、数百ものパートナーシップの実績がある点は日本企業の遠く先を行っている。興味深いのは、それでも毎年こうして受賞される取り組みは2件であり、ベンチャー企業と協業するも失敗に終わるケースも多いと考えられる。

 一般に、ベンチャー企業と大企業の協業は非常に難易度が高く、カルチャー、目標、時間軸の違いから簡単には上手くいかない。それでもこれだけ数百件オーダーでの取り組みを行っているというのは、ある程度失敗を前提に、良いものである可能性があれば積極的に協業するという文化や仕組みがあるのではないかと想定される。

 日本企業で良くありがちなのは、ベンチャー企業との協業が初めてであるケースも多く、こうした失敗に対する許容ができないことである。大手企業とベンチャー企業の協業が日本でもっと促進されるためには、こうした組織としてのベンチャー企業との付き合い方を理解し、仕組みに落とし込んでいく必要がある。

 特に上記を感じたのは、今回紹介したOpen Innovation Awardの受賞主体が「ベンチャー企業とボッシュ側の担当部門」というチームでの表彰になっていることである。こうした現業や研究開発部門を巻き込む地道な仕組みこそが、中長期的にカルチャーを醸成するのだろう。

 日本においても、もう数年オープンイノベーションが騒がれ、シリコンバレーに進出した企業も多い。必要に応じて外部機関の助けも借りながら、日本企業がやりやすい形でオープンイノベーションを浸透させていく活動が必要だろう。