グローバル医療機器メーカーであるAbbott社は2020年9月17日、世界初のグルコーススポーツバイオセンサー(Libre Sense Glucose Sport Biosensor)を発表した。

 このセンサーは、Abbott社の世界をリードするFreeStyle Libreという連続グルコースモニタリングテクノロジーをベースに開発されている。FreeStyle Libreは糖尿病患者向けのグルコースモニタリングセンサであるが、今回のセンサーは糖尿病を超えた使用を可能にする最初の個人用製品として、スポーツ向けの用途での発表である。

スポーツ向け:アスリートの筋肉疲労回避とパフォーマンス維持

 適切な間隔で適切な栄養を摂取することで、アスリートは持久力活動中に安定したグルコースレベルを維持することができる。これは、全体的なエネルギーを管理し、筋肉疲労を回避するために重要だという。今回のバイオセンサにより、センサとアプリを介してグルコースレベルをユーザーがモニタリングできるようになり、栄養を適切に補給して、低グルコースによる疲労を回避し、トレーニングや競技中に補充してピークパフォーマンスを維持する時期を知ることができる。

 なお、同社のこの狙いは、American College of Sports Medicineや、Current Sports Medicine Reportsで発表された研究に基づくものだという。(*1, *2参照)

 このLibre Sense Glucose Sportバイオセンサーからグルコースをセンシングするため、アスリートのユーザーは上腕の後ろに小さな丸いバイオセンサーを着用する。

 バイオセンサーは、リアルタイムのグルコース値読み取り、自動的にBluetooth経由でリーダーにデータが送られ、それをアプリ上でデータ閲覧ができる。使用期間は14日間となっており、このあたりはFreeStyle Libreと同じである。

 今回の発表では、欧州でCEマークの取得が完了しており、まずは今後数週間で欧州8カ国(オーストリア、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、スイス、イギリス)で利用できるようになるという。

連続グルコースモニタリング FreeStyle Libreとは

 今回の元となっているセンサーの連続グルコースモニタリングFreeStyle Libreは、Abbott社が開発し、2014年に欧州で発売を開始、世界的に急速に普及してきたセンシングデバイスである。日本では2017年より発売されている。

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 元々糖尿病患者は毎日、血糖値のモニタリングをする必要があり、血液採取での測定がメインであったが、痛みがあるなどの負担感が強く、低侵襲や非侵襲でのグルコースモニタリングの実現が求められていた。Abbott社はコインサイズのセンサーデバイスFreeStyle Libreを開発。マイクロニードルを使い皮膚下の間質液中(間質液とは細胞と細胞の間に存在する液のこと)からグルコース濃度を測定する低侵襲の連続グルコースモニタリングを実用化した。間質液のグルコース濃度と血管を流れるグルコース濃度である血糖値とは厳密には異なるが、高い相関があることが証明されている。

*1 Moore, D. 2015. Nutrition to Support Recovery from Endurance Exercise: Optimal Carbohydrate and Protein Replacement. American College of Sports Medicine. 14(4), pp. 294-300.

*2 Olsson, J. 2016. Swedish School of Sport and Health Sciences, GIH, Department of Sport and Health Sciences. Swedish Elite Swimmers Blood Glucose Levels During Recovery: A Descriptive Study Using Continuous Glucose Monitoring Systems.

 グルコースモニタリングの技術がスポーツ向けの用途で展開されようとしている、とても興味深い事例である。アスリートなどのスポーツ向けの生体センシングでは、ほかにも汗をバイオセンサーでセンシングし、脱水症状や熱中症の兆候検知をするような試みもされている。 こうしたヘルスケアで開発された技術が、スポーツテックのような周辺領域で事業化できると面白い。