Stanford Healthcare Innovation Labは、2020年4月からウェアラブルデバイスでCOVID-19を検出する研究・大規模実証を開始している。ウェアラブルデバイスでこうした大規模で、何かの症状検知を行うような取り組みは珍しく、最先端を進んでいる取り組みである。

今回はこれら一連の動きについて紹介する。

Stanford Healthcare Innovation Labとは?

 Stanford Healthcare Innovation Labとは、2020年にスタンフォード医学内でのヘルスケア研究開発を加速する目的で設立された。大元の研究はスタンフォードでゲノミクス・バイオインフォマティクスをリードしているマイケル・スナイダー博士から来ており、このラボのディレクターを務めている。

 スナイダー博士は個人の何百万もの健康データを解析するパーソナライズ化の研究を行う先駆者であり、癌、心血管疾患、糖尿病、感染症などの病気の早期発見と予防を狙っている。

 同ラボにはすでに企業やベンチャーキャピタルから多額の資金が集まっており、現時点でその総額は約242m$にもなる。同ラボに所属する研究者の数も100人を超える。まさにテクノロジーを使ったヘルスケアにおける最先端産学連携機関と言えよう。

ウェアラブルでCOVID-19を検知する大規模研究・実証実験

 Stanford Healthcare Innovation Labのディレクターであるスナイダー博士は、ウェアラブルデバイスを使用して、心拍数や皮膚温度など、体が感染と戦っているときに上昇することが知られている生体データを測定することで、免疫システムが機能していることを示す一連のアルゴリズムを研究・開発していた。

 今回COVID-19の世界的流行に伴い、こうしたアルゴリズムで得た知見のCOVID-19への適用可能性を探るための大規模研究・実証実験を、Stanford Healthcare Innovation Labで開始したのである。

実験対象となっているウェアラブルデバイスは以下5種類である。

  • Fitbit
  • Garmin
  • Samsung Galaxy Watch
  • Apple Watch
  • Oura Ring

 被験者は数千人単位で一般から公募しており、COVID-19の確定または疑われる症例がある人、COVID-19感染の疑いのある人と接触したことがある、曝露のリスクが高い人(医療従事者、食料品店の労働者、学生寮に住む人々など)を募集している。

 被験者として認定されると、被験者は自分のスマートフォンに専用のアプリをダウンロードし、そこにウェアラブルデバイスのデータを連携し、データをサーバーへ吸い上げていく。また、週に1回程度、症状アンケートに回答する(感染者は毎日回答)。

 COVID-19が長期的な健康にどのように影響するかを理解する目的もあるため、被験者は最大2年間のウェアラブルデータを収集することに協力をする。ただし、研究への参加は完全に任意であり、いつでも研究から脱退することができる。

2020年7月にあった研究進捗のアップデート

 Stanford Healthcare Innovation Labは、2020年7月にその進捗についてアップデートを発表している。

 あくまで途中段階ではあるが、現在の速報ベースでの研究報告では、ウェアラブルから取得される生体・活動データから、COVID-19感染が、COVID-19感染発生者の80%で心拍数、歩数、睡眠の変化に関連していることを示すことができたことが報告されている。これは5,000人以上の被験者の中から、31名の感染者を対象にウェアラブルデータを解析した結果となっている。

 特筆すべきは、ウェアラブルデバイスから取得している生体データの値の変化は、症状の発症前または発症時に、陽性症例の85%以上(21人/24人)で、場合によっては症状の9日以上前に検出された点である。

文献元のURLはこちら

「Early Detection Of COVID-19 Using A Smartwatch」(July, 2020)

注:同論文はあくまで速報としての報告であり、査読されたものではない点は留意

ー 技術アナリストの目 ー
 ウェアラブルデバイスで取得した大量の生体データを解析して、病気の予測や兆候を検知するといった研究は、ありそうで世の中で取り組んでいる例は多くない。スタンフォードではこのテーマに対して真正面から取り組んでおり、COVID-19に限らず、今後の研究次第では生体センシングの領域を大きく変える可能性を秘めている。