よく企業から質問されることの1つに「ベンチャー企業をどのように見たら良いのか?(自社にあった企業を探すにはどうしたらよいのか?)」というものがある。今回は、海外の先端技術ベンチャー企業をどのようにスクリーニングし、自社にあった企業を探していくのかについて解説したい。

ベンチャー企業を見るステップ

 ベンチャー企業を調査していく上で必要なステップは非常にシンプルである。おおよそ以下のステップでベンチャー企業を見ていくことになる。ただし、当然目的に応じてこうしたやり方は変わる点は要注意である。

自社にあったベンチャー企業を探していくステップ例

 よくある担当者がある程度網羅的に調査をする、というタスクを行う例を挙げる。この場合はある程度幅広く調べて、何かしらの条件で絞り込んでいくことが求められる。そのため、最初は幅広く技術キーワードでロングリストを作成する。次により自社が探している技術方式や、用途に対応しているものを一覧で調べていく。

 そして、ある程度の技術方式であったり技術の用途で絞り込んだ企業に対して、技術の詳細を可能な限り把握しにいく。この段階ではHPページで情報が少ないのであれば特許なども見に行く必要があるだろう。

 そのあと忘れがちなのが、資金調達フェーズを確認することである。企業の資金調達フェーズは、その企業の成長ステージを把握するのに重要でかつわかりやすい指標であるが、特にベンチャー企業を見るのに慣れていないと忘れがちなプロセスになってしまう。資金調達フェーズは、Crunchbaseといったツールや、企業のHPのニュースリリースで資金調達情報が流れていたりするので、そこから拾うと良いだろう。

 そして最後に資料請求やコンタクトを行い、より深い情報を取りに行くというステップが効率が良い。一般に、研究開発部門や事業開発部門でスタートアップを探すときにはリソースが限られるため、あまり手間をかけすぎて調査をすることは難しい。効率的にいくのであれば、このように絞り込みながら深い情報を取りに行くことが必要だろう。

 では、よく忘れられがちな資金調達フェーズについてより詳しく解説していく。

ベンチャー企業のステージを理解する ~資金調達ステージを確認~

 一般にベンチャー企業は、資金調達フェーズによって成長ステージを大まかに表すことができる。

注1:ただし実際には企業によって多少異なる点もあるのは注意。あくまで大まかな考え方だと思って欲しい
注2:金額規模はあくまで海外での話であり、日本では調達金額の桁が1桁落ちることが多い
注3:いわゆるものづくりやIoT関連をイメージしており、Webサービスなどは状況が異なる

Seed(数千万円~数億円程度)

 アイディア段階や最初のチーム2-3人が組成された段階。この段階ではまだそもそも何かしらのモノが無かったりする。大学からのスピンオフの場合は、ベースとなる技術は大学で確立されていて、それに対して初期プロトタイプの仮説やビジネスモデルの仮説がある状態である。

Early Stage(1~数億円程度)

 Seedで調達した資金を使って、何かしらの原理検証するためのプロトタイプを製作して検証を行う。コア機能やコアとする技術の原理検証ができた段階で、実環境での試作テストに移るための資金を調達するためにSeriesAに進む。いくつかの用途仮説に対して、ラボレベルでの原理検証を行い、初期のアプリケーションの見通しも確度を高めていく。

SeriesA(数億円~10数億円程度)

 Early Stageで調達した資金を使って、ラボから実環境での検証に移るための試作品開発と機能の実証を行う。ターゲットとする初期のアプリケーション仮説はある状態。その仮説に対して、実環境で検証を行っていく。

 この段階になるとメディアでの露出も増え始め、展示会にも出展する企業が増えてくる。大手企業からすると、このあたりのフェーズになるとPoCをするためのプロトタイプができているため、付き合いやすい。ただし、SeriesAが調達できたくらいの段階だと、まだ製品のサイズが大きかったり、コア機能は実現できているが、周辺機能が弱かったりするため、当然、ここからさらに製品開発が必要である。

SeriesB(10~数十億円)

 SeriesAで有望なアプリケーションが見つかり、PoCが複数進んでおり、製品化に向けた具体的なロードマップや量産化に向けた準備を行うフェーズ。製品によってはすでに商用取引が始まり、特定アプリケーションで顧客がついており、顧客からの評価も高い状態であることもある。

 SeriesBは海外では数十億円規模の調達になることが多く、多くのメディアで取り上げられる。大手企業との協業も発表されることも多く、将来有望ベンチャーとして注目を集める。

SeriesC以降(~数十億円)

 特定アプリケーションで量産が開始されていたりする。SeriesC以降は大きな金額の資金を調達して、グローバル展開や新しい用途開発を行ったり、自動車やスマホなどのボリュームの出るアプリケーションに採用されて生産量をさらに拡大したりするのに資金を使う。

その他

 順調にいくと、このようにシード→アーリーステージ→SeriesA→SeriesB→SeriesC以降とフェーズを右肩上がりに進んでいくわけであるが、実際には必ずしも順調にいくとは限らない。場合によっては途中でピボット(事業領域の転換)が必要になるケースも多く、SeriesAあたりで、SeriesBに行かずにSeriesAを2回行ったり、途中でステルスモードになり、一旦企業が情報発信などをストップし、特定用途向けで水面化で製品開発に集中する、といったようなことにもなる。

 また、あまり数は多くないが、SeriesAやBあたりで新興市場に上場を行い、製品開発のための資金を公開株で調達するケースもある。

 このように、ベンチャー企業の成長フェーズというのはある程度大まかには、資金調達フェーズを見ることによって理解をすることができる。

大手企業が付き合いやすいベンチャー企業のフェーズは?

 よくある大手企業側からのコメントとして、「製品を見てみたがすぐ使えないものだった」や「展示会で話をしてサンプルワークしたが、まだ改善しないといけない点が多いものだった」などある。典型的なのはSeriesA前後くらいのベンチャーの技術や製品をPoCする際にはこうした評価になることが多いように見える。

 これは大手企業が技術を探すときに、その技術に求める時間軸と、ベンチャー側の製品開発の時間軸がズレているときに生じることが多く、難しい問題である。

 比較的短期間で、すぐに使える技術・製品を探すのであれば、大手企業が最も付き合いやすいフェーズはSeriesB以降だろう。ただし、SeriesBあたりからベンチャー企業も注目を多く集め、いわゆる人気者状態になることも多いため、大手企業とベンチャー企業の力関係も変わっていくことになる点は注意である。

 シード期やアーリーステージ段階では、大手企業側で技術を数年かけて育成する、というスタンスや仕組みが無いと、接点を持ったとしても付き合いが続かないことが多いのである。

 大手企業が技術やパートナーを探す際に、比較的やりやすいのはSeriesAやSeriesBあたりのフェーズと言えるだろう。実際にCVCがこのあたりのフェーズから出資に参加することも多い。

アワードの受賞歴も有効

 他にも、より大手企業の担当者がベンチャー企業を見るポイントとして補足できる情報はある。それはアワードの受賞歴である。

 現在、世界中でベンチャー企業・スタートアップエコシステムが盛り上がっており、カンファレンスや展示会、業界団体などが盛んに有望ベンチャー企業を表彰している。これら受賞歴というのは一定程度、ベンチャー企業のスクリーニングに役立つことになる。理由は、こうしたアワードは何かしらのセレクションがされており、ベンチャー企業からの応募された内容を元に審査員が評価するため、技術またはビジネスモデルが何かしら尖っていることが多い。

 例えばマシンビジョンAIを開発するベンチャー企業が、ある車載AIのカンファレンスでイノベーションアワードを受賞したとしよう。このベンチャー企業はHP上で「どんな環境でも堅牢・ロバストな環境認識を実現するマシンビジョン」を特徴としてアピールしているとする。HP上を見ただけではこのロバスト性というのがどの程度かわからないが、アワードでこうした点が評価されている場合、機能に対する信ぴょう性が上がるのである。

 このように、スクリーニングの補足情報としてアワードの受賞歴は有効である。

 以上、大まかにベンチャー企業を見るステップについて説明してきた。このメディアでも、注目ベンチャー企業の資金調達情報や、新しい動きについては都度発信していくので、情報収集が可能であるので、ぜひ有効に活用いただきたい。

 数多くの企業に対してPoCを行うことは大企業側のリソース的にも不可能であるし、ベンチャー企業のリソースも無駄に使わせてしまうことになり、双方にとって非効率である。こうなると、せっかくベンチャー企業と接点を持ったとしても良い関係にならず終わってしまうことが多い。

 できるだけ会う前に、PoCに進む前に、網羅的に比較をした上で、自社の目的感に合いそうな企業を数社に絞りコンタクトをしていく方法が望ましい。その際に、今回紹介したような資金調達額・フェーズや、アワードの受賞歴は有効なアプローチとなる。

 一方で、こうした海外ベンチャー企業の探索は非常に時間とリソースがかかるものであり、スピーディーかつ網羅的に調査をするのであれば、外部の調査会社を活用するのも有効だろう。