Appleは2020年9月のApple EventでApple Watch Series6を発表し、血中酸素飽和度(SpO2)センサーの搭載を発表した。Fitbitは先行して、2020年1月にSpO2の表示が可能になったことを発表し、まずは米国から始まって、2月からは日本でも使えるようになった。様々なウェアラブルデバイスでSpO2が注目されている。

なぜウェアラブルデバイスでSpO2を測定できることが良いのか、デジタルヘルスケアにおいて、どういう付加価値があるのかを整理したい。

血中酸素飽和度(SpO2)とは何か?

血中酸素飽和度(SpO2)とは、血液中にどの程度の酸素が含まれているかを示すパラメーターである。SpO2のSとはSaturation(飽和)、PとはPercutaneous(経皮的)、O2は酸素を示している。

空気中の酸素は呼吸によって、肺胞に運ばれる。酸素はヘモグロビンと結合し、全身に運ばれていく。ヘモグロビンは酸素と結合していない時には赤色を吸収し、酸素と結合している時には赤色をあまり吸収しない。この光の吸収の差を利用して、通常はパルスオキシメーターを指先に挟み、光を照射してその光の吸収度合いを測り、SpO2を測定する。厳密にはSaO2(動脈血の酸素飽和度)というのがあり、そのSaO2を経皮から間接的に測定するものがSpO2である。

パルスオキシメーターを指先に挟んでいる図

Photo by Thinkpaul, CC BY-SA 3.0

一般に、安静時に健康な人のSpO2値は96~99%と言われている(ただし、SpO2値は呼吸の仕方、姿勢、動作のその時の状況などで変化する)。90%を下回ると呼吸不全の状態と言われている。

SpO2がわかると何ができるのか?

細かくは様々あるが、大まかに代表的なものとして以下3つを紹介する。

慢性呼吸器疾患のモニタリング

通常、慢性閉塞性肺疾患(COPD)をはじめとする慢性呼吸器疾患などで、様々な動作によって酸素不足になりSpO2が低下する。こうした場合にパルスオキシメーターを装着し、動作の前にSpO2を確認し、酸素不足にならないようにモニタリングしたり、またこうした症状が疑われる人がモニタリングを行い、普段の値から大きくSpO2が下がったりする場合に、医療機関に早めに行くなどの目的で使われる。

睡眠時無呼吸症候群の簡易スクリーニング

他にも睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断と重症度判定の簡易スクリーニングにもSpO2は使われている。通常、睡眠時無呼吸症候群を診断する場合には口や鼻の気流測定や脳波を測定するなどの計測装置が使われるが、パルスオキシメーターを一晩中装着し、SpO2が通常より1時間の間に何度も3-4%低下した状態が出たりするようであれば、睡眠時無呼吸症候群の疑いがあるとなる。

コロナウイルス感染の簡易スクリーニング(未実現)

COVID-19を引き起こす新しいコロナウイルスは、呼吸器系を介して体内に入り、炎症や肺炎を介して人の肺に直接的な損傷を引き起こす。このウイルスは酸素が血流にどれだけうまく伝達されるかに悪影響を与える可能性があるとされている。この酸素障害は、COVID-19の感染初期段階で発生する可能性があり、人工呼吸器を装着した重症患者だけではないと言われている。

実際に、医療現場ではSPO2が患者の状態をモニタリングする1つの指標として使われているが、これが初期スクリーニングで活用できるかどうかはまだはっきりしないようだ。

参考)第2版・診療の手引き) COVID-19(新型コロナウイルス感染症) 厚生労働省

SpO2がウェアラブルデバイスで測定できることの意味

2018年~2019年にかけては、ウェアラブルデバイスでECG(心電)センサーが搭載されたことにより、ECGが測定可能になった。そして2020年はSpO2がようやく測定できるようになり、新しく健康を示すパラメーターの幅が広がったことになる。ただし、FitbitやApple WatchによるSpO2の測定は、2020年10月現在においてはまだFDAの認可を取得できておらず、あくまでフィットネス用途の参考指標でしか使えないという点は要注意だ。

今後、FDAの認可を取得したタイミングで、本格的にウェアラブルデバイスはさらに一歩ヘルスケア・医療よりの用途や付加価値に踏み込むことになり、こうした動きは今後益々加速するであろう。


ー 技術アナリストの目 ー SpO2の話は、ウェアラブルデバイス界隈では以前からあり、ようやく少し具体的な動きが出てきた。本格的に用途が拡がるのはFDAの認可が取得できてからになるだろうが、FDAの認可が下りるタイミングを定点観測したい。