ADAS・自動運転において、センシング技術の開発競争は激化している。特に「LiDAR」×「レーダー」×「カメラ・イメージセンサ」の3種の神器と呼ばれる自動運転時代で核となるセンシング技術は進歩が著しい。

今回は中でもレーダーセンサに焦点をあてて、資金調達上位の有名スタートアップを紹介する。

100社を超える世界のレーダー企業

筆者が独自に調査を行ったところ、海外のレーダー企業はロングリストで100社を超える。ただし、レーダー技術は今でこそ自動運転で注目されているが、古くは1980年代にはすでに車載センシング目的での研究は始まっており、その歴史は長い。通信分野では無線システムや、大気観測、風力発電や航空分野では鳥の巻き込み監視など、幅広く実用化されてきた。そのため、ベンチャー・スタートアップというよりは中小企業も含まれている点は注意されたい。

いわゆるレーダー技術を代表するミリ波レーダーの周波数帯は30GHz~300GHzと言われる。LiDARに比べ、悪天候や日中・夜間といった環境に左右されにくく、遠方の物体を検出する性能に優れるが、その物体が何なのかという形やサイズなどの詳細を識別するのは苦手である。しかし近年、メタマテリアル技術の進展や、半導体技術の進展により、超高解像度のレーダーセンサに焦点があたるようになってきた。

LiDARと比べると、近年のレーダースタートアップ資金調達の動きもやや堅く、LiDARほどには大きな資金は動いていない。しかし、自動運転においてはやはりレーダーの存在は無視することはできない重要な技術である。

有望ベンチャー企業は大手企業との提携も進んでいる。そんな自動運転にかかせない有望レーダーベンチャーTOP5は以下である。

1位:Vayar Imaging(イスラエル) 高解像度4Dイメージセンサ

  • 設立年     :2011年
  • 国       :イスラエル
  • 従業員数    :101-250名
  • 資金調達フェーズ:SeriesD
  • 最新資金調達日 :2019年11月
  • 最新資金調達額 :109m$
  • 総資金調達額  :199m$
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レーダーの領域で圧倒的に資金を調達しているベンチャーが、イスラエルのVayar Imagingである。

元々、同社は乳がん検診向けの新しいイメージセンサーを開発することを目的に設立された。なお、この医療向けのイメージセンサの実用化は時間がかかっており、まだ実用化ができていない。イスラエルの病院と実証実験を行っている状況のようだ。

他にはスマートホーム向けの高齢者見守り用途や、物流倉庫での在庫カウント、そして自動車向けのIn-Cabinでの乳幼児モニタリング(置き去り防止など)・及び車外環境のモニタリングが用途として挙げられる。

2019年11月にはSeriesDで109m$もの巨額の資金を集め、本格的な日本市場への展開も進めるという。マクニカと代理店契約を結び、同社を通じて日本市場でのプロジェクトを本格化させたい考えだ。

なお、自動車用途では同社のレーダーオンチップ(ROC)は、60GHzと79GHzの両方の帯域をサポートする、デュアルバンド範囲を備えた世界初のセンサーソリューションであるという。2020年8月には自動運転・ADAS開発のための超短および近距離イメージングレーダ(uSRR / SRR)評価キット(EVK)の提供を開始した。

同社は巨額の資金調達に成功している一方で、まだ本格的にはどのアプリケーションも商業ベースには乗っていないように見える。同社が中期的に注力しているであろう自動車分野も、あくまで開発のための評価キットの提供だ。スマートホーム用途もこれからな市場であることもあり、この1年くらいの時間軸における大手企業とのプロジェクトの動きが重要となる。本格的に商業ベースに乗るアプリケーションが見つかるかどうかが今後の成功のカギとなるだろう。

2位:Uhnder(米国) 安価なシングルレーダーオンチップを開発

  • 設立年     :2015年
  • 国       :米国
  • 従業員数    :11-50名
  • 資金調達フェーズ:SeriesB
  • 最新資金調達日 :2019年5月
  • 最新資金調達額 :N.A.
  • 総資金調達額  :75m$以上
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2018年1月にMagna社から提携が発表され、MagnaのソリューションICONRADARにUhnderのチップが採用されることが明らかになり、話題となった。300メートルを超える範囲で、環境を4次元(距離、高さ、深さ、速度)で継続的にスキャンするという。(2019年に市場に投入するとしていたが、その後あまり大きな発表が無いため、現在も開発が進んでいると考えられる。)

Uhnderの技術は、高度なCMOSとデジタルコード変調(DCM)テクノロジーの組み合わせを使用して、パフォーマンスが向上し、サイズが小さく、電力とコストが低いレーダーを実現している。Uhnderのレーダーセンサーは、最大300mの範囲で環境を3Dでマッピングが可能という。1度未満の方位分解能を実現したと言われる。レーダーオンチップ(RoC)には、12個の送信アンテナと16個の受信アンテナがあり、77 / 79GHz帯域を使用する。

2019年5月にSeriesBを行ったとされるが、詳細は不明である。同社はまだステルスモード(あまり公に情報をオープンにせず、水面下で特定プロジェクトに従事している状態であることが多い)であり、オープンになっている情報は少ない。

3位:Echodyne Corp(米国) 高性能メタマテリアル電子スキャンアレイレーダー

  • 設立年     :2014年
  • 国       :米国
  • 従業員数    :11-50名
  • 資金調達フェーズ:SeriesC
  • 最新資金調達日 :2019年9月
  • 最新資金調達額 :20m$
  • 総資金調達額  :64m$
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Echodyneは特許取得済みの、高性能メタマテリアルを活用した独自の電子スキャンアレイ(MESA)レーダーを展開している。同社はコア技術のMESAレーダーを活用し、防衛・セキュリティ、ドローン監視、自動車と幅広くラインナップをそろえてきている。

防衛分野では、国境監視などのアプリケーションが現在テストされている。国境(例えば米国とメキシコ)を監視する目的で、Echodyneのレーダー技術が使われ、違法入国する人を見つけるという複数の案件が動いているという。2019年に発表された内容によると、同社のレーダーが100台相当、一流の防衛サプライヤへ納入されたという。

同社の技術は、レーダー技術の頂点と言われ気象用や軍用に長く使われてきたフェーズドアレイレーダーよりもけた違いに小さく、軽く、手ごろな価格のレーダーを実現したところに特徴がある。フェーズドアレイレーダーのように動作し、可動部品なしで視野の周りを瞬時に高解像度のスポットビームを電子的に操縦する。新たに開発されたモデルでは、Amazon Kindleのサイズであり、手のひらで持てる大きさである。

主要株主には、あのビルゲイツも含まれており、2019年11月にはSeriesCで20m$の資金を調達。販売チャネルの拡大と、商業用ドローン・自律走行車向けの更なる開発のために資金を活用するという。

4位:Arralis(アイルランド) 110GHz以上のモノリシックマイクロ波集積回路による高性能ミリ波

  • 設立年     :2013年
  • 国       :アイルランド
  • 従業員数    :11-50名
  • 資金調達フェーズ:SeriesA
  • 最新資金調達日 :2017年3月
  • 最新資金調達額 :53m$
  • 総資金調達額  :56m$

Arralisは2013年に設立されたアイルランドのベンチャーで、主には宇宙や航空防衛産業向けにレーダー製品を展開している。同社の顧客には、欧州宇宙機関、英国国防省、エアバス、ボーイング、ゼネラルモーターズなどが含まれる。

独自開発したモノリシックマイクロ波集積回路(mmics)、パッケージモジュール、サブシステム、アンテナまで含めたレーダー及び通信システムを提供している。同社の技術の強みは、アンテナ及び110GHzまでの非常に低損失な導波管設計にあり、複数の特許を保有しているという。

2019年のTU-Automotiveで自動車向けの製品を展示。検出範囲、仰角分解能、スキャン領域で現在自動車市場で利用可能な製品のスペックを超えたものを実現したと発表。±45°の方位角と±7°の仰角で、最大300mの複数の3Dターゲットを検知可能であるという。

5位:Arbe(イスラエル) 1°方位角分解能の超高精度4Dイメージセンサチップ

  • 設立年     :2015年
  • 国       :イスラエル
  • 従業員数    :51-100名
  • 資金調達フェーズ:SeriesB
  • 最新資金調達日 :2019年12月
  • 最新資金調達額 :32m$
  • 総資金調達額  :54m$
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2015年に半導体エンジニア、レーダースペシャリスト、データサイエンティストのチームによって設立されたベンチャー企業。2019年12月に32m$もの資金を調達して一躍話題になった。

独自開発した自動車グレード向けのRFチップセット、特許出願中のベースバンド処理チップ、レーダーの相互干渉を防ぐFMCW方式(周波数連続変調)、これらの技術を組み合わせて4D超高解像度を実現している。水平方向の検出範囲は100°・方位角分解能1°、仰角方向の検出範囲は30°・仰角分解能2°であり、300mまでの長距離検知が可能という。

2020年5月には自動車向けの専用レーダーイメージング処理チップを発表。特許取得済みのチップは、48の受信チャネルと48の送信チャネルによって生成された生データを処理し、毎秒30フレームを生成し、自動車における電力の制約条件を満たすという。通常10W~20Wの消費電力であるチップは、同社のもので4W未満の電力消費になる。

興味深いことに、2019年12月のSeriesBの資金調達では、中国資本が数多く入っており、投資家には北京汽車集団産業投資(BAIC Capital )などが含まれる。中国系OEMとの結びつきを強めており、中国市場で技術が先に展開されていく可能性も秘めている。


以上、ここまで世界のレーダー企業約100社の中で、特に資金調達上位5社のベンチャー企業を見てきた。LiDARと比べるとそこまで巨額の資金が動いているわけではないが、それでもこの1年くらいで複数の企業が資金調達に成功している。他にも技術的に興味深いレーダー企業は複数存在しており、今後の技術開発の動きは見逃せない。