2019年、グローバル電子部品大手のKEMET(米国)がハプティクスベンチャーのNovasentis(米国)を買収した。KEMETはコンデンサやキャパシタのグローバルサプライヤで、従業員約12,500人を擁する大手企業(なお、その後2020年6月にKEMETは台湾の電子部品大手Yageoに買収されている)。

KEMETがハプティクスベンチャーのNovasentisを買収した狙いや、Novasentisの技術について紹介する。

EMP(ポリマーフィルム)で触覚を実現するNovasentis

Novasentisは2006年に、元AppleのExecutiveであるRalph Russo氏が設立したベンチャー企業。Crunchbaseによると資金調達額で約24m$を集めているが、同社が2018年にKEMETから出資を受けた際のフェーズはシリーズDであったため、実際にはより多くの資金を集めている可能性がある。

同社の技術の出自はペンシルバニア大学から来ており、同大学で生み出されたポリマーフィルムの技術知財をNovasentisが買い取り、製品化を進めてきた。その技術はEMP(electro-mechanical polymer:電気機械ポリマー)という独自のポリマーフィルムにより触覚フィードバックを実現するもの。

その薄くて柔軟なアクチュエータは、従来の圧電素子と比較して、より低い動作電圧で圧電効果を発揮する独自の電気活性高分子膜で作られているという。

同社公開のYoutubeへの直リンク
※少し動画は古いが同社のEMPをわかりやすく解説している

電源が入っていない状態では、フィルムの分子構造はランダムに整列し、電源を入れると、分子はフィルムを伸ばす方向に整列し、圧電効果を生み出す。このアクチュエータを剛性のある基板に接着または統合すると、アクチュエータの伸びが面外振動に変換され、触覚効果が生まれるという構造だ。

ポリマーフィルムという薄くて軽く、曲げることができる構造から、同社が狙っている用途は、VRグローブやウェアラブルデバイス、スマート衣服といった領域であった。

電子部品大手KEMETによる買収

KEMETは2015年からNovasentisの技術に目をつけて、その開発を支援してきた。2018年にはシリーズDの出資を行い、Novasentisの取締役会に人を送り込んで、緊密な連携をしている。そして、2019年7月にKEMETが同ベンチャーを買収した。

KEMETは2013年にトーキンも買収し、圧電分野の強化を図っていた。KEMETはスマートフォンからヘッドセットまで適用できる触覚フィードバックの技術を手に入れ、そのカバー範囲を広げようとする意図があり、Novasentisと関係強化をしてきた。KEMETのフィルムコンデンサの製造技術を使って、Novasentisのポリマーフィルム触覚アクチュエーターを生産ができることも、シナジーがあるという。

今後、KEMETを通して様々なウェアラブルデバイスにNovasentisのEMPポリマーフィルム触覚アクチュエーターを展開することを狙う。


― 著者の目 ―
KEMETとNovasentisの具体的な活動が表に出たのは2015年頃であり、その当時の狙いとしては2017年初頭に生産開始、ということであった。結果的には恐らく技術開発、および触覚アクチュエーターの市場の立ち上がりが想定より遅く、Novasentisとしてもマネタイズが不安定なまま独自に事業を継続するより、技術面・生産面・販路面でのシナジーがあり、安定するKEMETの傘下に入る道を選んだのだろう。