スイスのEPFL(Swiss Federal Institute of Technology in Lausanne:スイス連邦工科大学ローザンヌ校)は様々なエッジのある技術を持つベンチャー企業を多数輩出している。

そんなベンチャー企業の1社が、2018年に設立されたばかりのSenbiosysだ。まだあまり情報が無いSenbiosysであるが、今回は同社の可能性について触れていきたい。

高感度PPG(Photo Plethysmography:フォトプレチスモグラフィー)を開発中

Senbiosysの技術は、PPGと呼ばれる手法を使用して、心拍数、血中酸素濃度、血圧などの生体情報を精度よく取得するために、CMOSイメージセンサーも含めた独自のアーキテクチャを設計・開発している。

PPG(別名:光電脈波法)とは、脈波を測定する1つの手法である。測定には多くの場合、近赤外光の吸収を使う。近赤外光は、人間の体表面から2~3mmまで透過する。特に700~800nmの波長はヘモグロビンによく吸収されるたるため、近赤外光を皮膚表面に照射し、反射光を測定することで、体表面近くの血液量変化を測定することができる。心拍が生じると血液の量の変化に伴って受光量が変動するという仕組みだ。

このPPGの手法はすでに様々なウェアラブルデバイスで使われている一般的な手法である。同社は独自設計のPPGセンサーにより高感度PPGを実現しようとしている。その特徴は以下である。

  • 1.62mm2サイズの小型カスタムICを設計
    他のどのセンサーよりも小さいため、PPG対応のイヤフォンに組み込むのに理想的な選択肢となるという。(ただし、まだ開発中)
  • CMOSイメージセンサ―ピクセルアレイと斬新なアナログフロントエンド設計
    PPGモジュールのLED光源を駆動するために必要な電流量が大幅に削減される。結果として、PPG信号の品質を向上させながら、現在のPPGセンサーの消費量をほぼ2桁上回るパフォーマンスを実現できるという。

同社が提案している構成図
(2019 IEEE International Solid State Circuits Conferenceでの発表)

図3。
引用)A. Caizzone, A. Boukhayma and C. Enz, “A 2.6 μW Monolithic CMOS Photoplethysmographic (PPG) Sensor Operating With 2 μW LED Power for Continuous Health Monitoring,” in IEEE Transactions on Biomedical Circuits and Systems, vol. 13, no. 6, pp. 1243-1253, Dec. 2019, doi: 10.1109/TBCAS.2019.2944393. クリエイティブコモンズ

同社が狙っているのは医療グレードであり、現在、新しいバージョンのチップをテスト中である。2020年5月にはフライブルク大学のStéphane Cook教授と、血圧モニタリングの臨床試験を行っているようだが、この結果についてはまだ公開されていない。

ウェアラブルデバイスが、血圧等のよりユーザーの健康に対して意味を持つ生体情報を測定するには、こうした要素技術の開発が不可欠だ。まだその技術的な可能性は未知な部分が多いが、今後の進展を注視していく必要がある。


ー 著者の目 -まだシードステージであり情報が少ないが、EPFL発の高感度PPGセンサーということで、技術的にはエッジが利いている可能性が高い。こうした分野ではほかに米国ベンチャーのValencellが先に進むが、医療グレードを狙っているわけではないため、SenbiosysのPPGで医療グレードでの測定に成功できれば用途は広がるだろう。血圧測定については難易度が高いと思うが、興味深い取り組みであるため、ウォッチしたい。