2020年7月に、非侵襲グルコースモニタリングデバイスを開発する米国ベンチャーのKNOW LABSが米国大手病院グループのメイヨークリニックと研究契約を締結したことを発表した。

KNOW LABSが開発する非侵襲グルコースモニタリング「Bio-RFID」の継続的なテストと検証を、メイヨ―クリニックが行うというもの。

血糖値のモニタリングは巨大な市場であり、非侵襲でグルコースをモニタリングする技術というのは過去から様々な大手・ベンチャー企業が取り組んできて、まだ成功に至っていない領域となっている。

非侵襲グルコースモニタリングデバイスを開発するKNOW LABSの技術とは?

KNOW LABSは2003年に設立された米国のベンチャー企業。同社は、高周波分光法という電磁波を使ったアプローチで体内のグルコースを測定しようとしている。電磁エネルギーを物質または材料にあてて、固有の分子シグネチャーをキャプチャしてグルコース含有量を識別するもの。これをセンサチップにしてスマートウォッチ型のデバイスの中に組み込んでいる。

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循環器系を流れるグルコースの最小濃度レベルと最大濃度レベルの間の特定の電波の振幅を、データアナリティクスと機械学習によって分析して、グルコースレベルを特定するものだ。

同社が2020年に取得したばかりの特許(US10548503B2)を見てみると、使用している周波数帯は300MHzから2500MHzの、いわゆるマイクロ波の領域であるようだ。こうしたマイクロ波を使った生体センシング技術は、いくつかのスタートアップが取り組んでいるが、多くは非接触で体表面の動き(体動)から心拍や呼吸を測定するものだ。同社はこのマイクロ波を使ってグルコースレベルを特定するという非常にユニークなアプローチを行っている。

なお、日本においては、NTT先端集積デバイス研究所が電磁波を用いたグルコースセンサを開発したことを2019年に発表しており、無線で培った技術を転用して実用化を狙っている。KNOW LABSの技術は、このNTTの技術に比較的近いものであると想定される。

Dexcom G5デバイスとの比較試験

マイクロニードルパッチで市場にすでに出回っているDexcomのG5デバイスとの比較は大変興味深い。もちろん、これはある限定的な側面での比較試験でしかないのであるが、すでにFDAの認可を得て市場で市民権を得ているDexcom G5との比較の結果をオープンに開示をしている点が、これまで水面下で進めることが多かったベンチャー企業とスタンスが異なる。

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新興企業向け市場(OTCQB)で株式公開を行っている

同社の資金調達方法は非常にユニークで、米国の新興企業向け市場(OTCQB)で株式公開を行っている。HP上で技術開発のプロセスや経営状況をオープンにしており、また動画でも積極的に情報発信を行っている。

Crunchbaseによると、同社は15.5m$の資金を調達しているが、これはこうした血糖値・グルコースモニタリングの領域では小さい規模である。

同社の可能性について

今後、論文や臨床試験の結果がオープンにされるタイミングで判断できるものになってくるが、同社はその技術開発のタイムラインとして、FDAでのde vonoでの申請を2020年内に行うとしている。

同社のアドバイザリーボードには、元FDAの医薬品評価研究センターで13年間在籍していた人間が入っている。他にもジェームズE.フランク糖尿病研究所の医療ディレクター&UCSFの臨床教授や、米国糖尿病学会の前会長も含まれる。非常に強力なアドバイザリー体制となっており、大変興味深い。


ー 著者の目 -
過去にも多くのベンチャー企業が数十億円と資金を調達しながらも、非侵襲のグルコースモニタリングを実用化できずに倒産した例がある。KNOW LABSのWebサイトにも記載があるが、この市場は聖杯と呼ばれており、誰かが手にしたら絶大な事業へのインパクトがあるが誰も手に入れられていない、というニュアンスがある。同社の今後の開発動向を注意深く見ていきたい。