2020年11月12日、カナダのオンタリオ州にあるMcMaster大学が研究しているウイルスをはじくプラスチックが、「Create the Future」コンテストで20,000$の最優秀賞を受賞したと発表した。

このコンテストは、モビリティ専門家で構成される米国非営利団体であるSAE International CompanyのグループであるSAE Media Groupが運営するコンテスト(Webページはこちら)で、毎年開催されている。

McMaster大学が研究しているウイルスをはじくプラスチックとは?

COVID-19のウイルスは20℃環境下で長時間生き残る

COVID-19を引き起こすウイルスは、様々な物質の表面に付着する。そして現在も様々な研究が行われているが、このウイルスは付着後も長時間生き続けるという研究結果が発表されている。例えば豪州の研究機関CSIROが2020年10月に発表した研究では、COVID-19を引き起こすウイルスは20℃の環境下で、ステンレス鋼、ガラス、ビニール、紙およびポリマー紙幣の表面上で28日間生き残ることができたという。
上記はウイルス学ジャーナルで掲載されたピアレビューの論文より 「Riddell, S., Goldie, S., Hill, A. et al. The effect of temperature on persistence of SARS-CoV-2 on common surfaces. Virol J 17, 145 (2020). https://doi.org/10.1186/s12985-020-01418-7

こうした感染性のウイルスに対して、公共施設やホテル、商業施設などの殺菌・消毒作業の負荷は高く、抗菌性素材やコーティングが求められている。

ウイルスをはじくプラスチックRepelWrapとは?

そこで今回のコンテストで最優秀賞を受賞したのは、ウイルスをはじくプラスチックだ。McMaster大学が研究しているこのプラスチックは、ウイルスやバクテリアを即座に撃退し、スーパーバグ(ほとんどの抗生物質に耐性のあるバクテリアの菌株)の移動を防ぐ可能性のあるセルフクリーニング表面であるという。

RepelWrapと呼ばれる透明なフレキシブルフィルムであり、ドアの取っ手、手すり、およびバクテリアが付着する様々な物質の表面に合うようにラッピングすることができる。

研究者は蓮の植物の超疎水性の機能から着想を得たという。蓮の超疎水性の葉は、表面に付着した水をすぐにビーズ状にし、すぐに転がり落とすことができる。このRepelWrapは、階層的なしわのある構造と化学的機能を組み合わせて、表面のウイルスの付着を防ぐ。水や血が表面に落ちた場合、接触すると反発して跳ね返る。同じことがウイルスやバクテリアにも起こるという。この反発をさらに強化するために、表面を化学的にも処理されている。

McMasterEngineering公開のYoutubeへの直リンク

なお、生分解性の緑色のプラスチックに製造して、持続可能性とリサイクル性に関する懸念を軽減することもできるという。

この研究は2019年12月にACS Nanoで論文が掲載されている。この論文では、世界保健機関が指定した優先病原体であるグラム陽性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、グラム陰性緑膿菌のバイオフィルム形成を減らすのに効果的であったことが示されている。
ACS Nano 2020, 14, 1, 454–465Publication Date:December 13, 2019 https://doi.org/10.1021/acsnano.9b06287

なお、今回のプレスリリースでは「ウイルス」としか言及されておらず、実際にCOVID-19を引き起こすウイルスに有効であるかどうかは、今後、データが示されるのを待つ必要がある点は注意だ。


ー 技術アナリストの目 -
よくある抗菌コーティングやプラスチックは、いわゆる銀ナノ粒子を活用したものが多い。これは銀イオンによる細菌への影響により、細胞死を促すメカニズムとなっている。対して今回の研究は、銀粒子を使わず、表面処理によって抗菌を実現している。超疎水性の素材は他にもベンチャー企業でも取り組み事例があるが、実用化するのを期待したい。