2020年9月、米国ベンチャー企業のSleep Score Labがこれまでに同社が蓄積した6,500万時間の睡眠データを活用した、エンドツーエンドソリューション開発支援を開始することを発表した。

睡眠科学ベンチャーSleep Score Labとは?

Sleep Score Labの概要

Sleep Score Labは2016年に米国で設立されたベンチャー企業。医療機器メーカーのResMedや、Apple、Philipsなどの企業、機関、組織の睡眠専門家のチームによって組織された。

オランダ神経科学研究所で10年間睡眠を研究していたRoy Rayman氏がChief Scientific Officerとして、CEOは睡眠医療機器業界で10年以上の経験があるColin Lawlor氏が務めている。

実は同社は医療機器メーカーのResMedとPegasysキャピタル、コロンビア大学の外科教授Dr. Mehmet Oz氏による合弁事業として設立されており、ResMedの技術をベースにして事業化してきた。

非接触での睡眠モニタリングにこだわり独自開発

Sleep Score Labは自社で2種類の非接触睡眠モニタリングの方法を開発している。

1つ目はSleepScore Maxというウルトラワイドバンド(Ultra Wide Band:数百MHzから数GHz程度の周波数帯)のレーダーを寝室に設置するタイプのもの。これはレーダーにより、睡眠中の体の動きや呼吸を検知し、睡眠データを取得するもの。

そして2つ目は、SleepScore Appという、iPhoneとSamsung S7, S8で利用可能なスマホのスピーカーとマイクを利用するアプリベースの睡眠モニタリングである。

SleepScore Maxの方が高品質な測定が可能という位置づけとなっており、より低コストで手軽に測る方法としてSleepScore Appがある。なお、アプリベースのものでも、睡眠ステージの判定は可能だ。睡眠時間、寝つき、浅い睡眠、深い睡眠、REM睡眠、起床時間が取得できる。

同社公開のYoutubeへの直リンク

どの程度の睡眠ステージ判定精度なのか?

睡眠モニタリングデバイスはおおよそどのデバイスでも、睡眠時間の判定には大差がないことが多い。そのため、睡眠ステージ(浅い眠り、REM、深い眠り)の判定の精度が大事となる。

ResMed Sensor Technologies社が出している論文「Non-Contact Estimation of Sleep Staging」でその有効性が言及されている。これは62人の成人被験者が、ベルリンのAdvanced Sleep Research(ASR)のスリープラボ環境で1泊し、フルPSG、ResMed S+、SamsungS7スマートフォンによるセンシングの有効性を確認したもの。

この実験結果では、SleepScore Maxのベースになっているレーダーを使ったセンシングで、睡眠ステージ判定はPSGと比較して62%の検出精度、REMは89%、深い睡眠(N3)は84%となっている。
論文:Zaffaroni A, Coffey S, Dodd S, Kilroy H, Lyon G, O’Rourke D, Lederer K, Fietze I, Penzel T. Sleep Staging Monitoring Based on Sonar Smartphone Technology. Annu Int Conf IEEE Eng Med Biol Soc. 2019 Jul;2019:2230-2233. doi: 10.1109/EMBC.2019.8857033. PMID: 31946344.

この数字だけを見ると、他のウェアラブルと比較して、REM及び深い睡眠の検出精度が高い。ただし、上記のデータは査読付き論文で発表されたわけではなく、カンファレンスペーパーである点は注意だ。

6,500万時間の睡眠データを使った新しいサービスとは?

今回発表されたのは、同社が蓄積した6,500万時間の睡眠データを使い、大手企業が睡眠に関連するサービス・事業を開発するのを支援するというものである。それは3つの柱から構成されている。

  1. 消費者向け商品やアプリとの連携による睡眠改善製品の共同開発
    研究開発段階から、フレーバー、フレグランス、栄養関連分野の企業と共同で開発に従事する。最近では、癒し音楽アプリのEndelとも共同開発を進めていると発表している。
  2. 睡眠関連製品の効果検証支援
    睡眠製品における、睡眠改善効果などの主張を裏付けるための実証テストを実行するもの。
  3. 大手小売・デジタルヘルスケア・保険会社への睡眠コンテンツ提供
    上記の業界の消費者向けサービスにおいて、膨大な睡眠データセットや独自のデータ分析に基づく独自のコンテンツのライセンス供与を行う。

このように、同社のビジネスモデルは、消費者向けにはできるだけユーザーフレンドリーな睡眠モニタリング手段とアプリを提供しながら膨大なデータを蓄積し、培ったアルゴリズムやノウハウを元にBtoBへ展開する、という構造になっている。


ー 技術アナリストの目 -
睡眠市場は巨大である一方で、現時点で海外の睡眠スタートアップにおいて、非医療領域の一般消費者向け睡眠市場で大きく成功している企業はまだいない。そうした中で、同社は膨大な睡眠データに基づく睡眠科学を強みに事業展開をするというポジショニングで、大変興味深い動きをしている。技術の出自がResMedである点も、ある程度技術に信頼性が置けるところだろう。引き続き同社の動きに注目したい。