2020年5月、台湾の全固体電池ベンチャーProLogium Technology(輝能科技股份有限公司)がシリーズDで100m$の調達をしたことが発表された。

世界で進む全固体電池の開発競争で、シリーズDまで到達したProLogim Technologyとはどういう会社なのか解説する。

ProLogium Technologyとは?

台湾で6年かけて基礎技術が開発

ProLogium Technologyは台湾で2006年に設立されたベンチャー企業である。創業から6年かけて研究開発を行い、2012年に曲げることができるフレキシブルリチウムセラミックバッテリー(FLCB)を開発。

2014年にはパウチ型のPLCBを発表し、コンシューマーマーケットへ展開。2017年あたりからEV向けや医療機器向けへの展開を模索し、2019年にはCES2019イノベーションアワードを受賞し、電気自動車向けで参考出展した。

同社公開のYoutubeへの直リンク

電解質にセラミックを使用した全固体電池

同社の電池は電解質に固体のセラミックを使う。一般に、化学的に安定な固体であるセラミックスを使うため、液体の電解質と比べて電解液が漏れて発火するおそれがなく安全性が高い。集電体にはカソードではアルミ箔を使い、アノードでは銅箔を使っている。

同社の製品紹介動画によると、EV向けの電池では、バッテリーセルのエネルギー密度は500~800Wh/Lとなっている。ただし、この数値は高水準ではあるが、必ずしも高くはない。テスラがモデル3に採用しているパナソニックのLIBは700Wh/Lとも言われ(参考記事:ロイター)、他にも最近発表されている新しい電池の水準としては、このレンジは様々存在する。

どちらかというと、同社の特徴は全固体電池だけでなく、周辺の設計も含めて特徴を出そうとしているように見える。例えば、同社は特徴の1つとして、独自のバイポーラ型(カソード / 電解質 / アノードを一体にする)の構造にすることで、パッケージあたりのエネルギー密度を向上させ、周辺部材も削減できることをアピールしている。

また、セルとパッケージの間には熱伝導ゲルを敷き詰め、均一に放熱されるように工夫をしている。同社によると、ヨーロッパのEVメーカーがテストした結果、同社の電池パッケージは従来のものと比べて3倍の放熱性能があるという。固体電解質にすることで、複雑な冷却システムが不要になり、放熱性能を上げながら、冷却構造をシンプルにした点も特徴であるようだ。

中国新興EVメーカーが採用の報道も

中国の新興EVメーカーであるEnovateは、2019年にEnovate ME7という新型EV SUVでProLogium Technologyのリチウムセラミック電池を採用することを発表した。

これはEVとして初の全固体電池採用となると話題になったが、2020年9月に実際に発売されたEnovate ME7は、実際にはハイニッケルのNCM622を正極材に使った電池であり、Wanxiang Groupが提供しているものであるようだ(参考記事はこちら)。

他にも、同じ中国の新興EVメーカーのNIOが2019年8月にProLogium Technologyと全固体電池を搭載したEVのプロトタイプを作ることで共同開発に合意している。正式採用には至らないが、中国勢を中心に同社の全固体電池の活用が模索されているようだ。

(関連ニュースリリースはこちら


電池にとって重要となる、フォルクスワーゲンの電池ロードマップ発表の内容についても整理したのでご参考。

参考:Volkswagenが2030年までの電池ロードマップを公開、さらにEVを強化へ


ー 技術アナリストの目 -
すぐにはEVに全固体電池が搭載されないことが、Enovate ME7で証明されたようなものであるが、それでも同社はシリーズDで100m$の資金を調達できている。資金調達のタイミングではME7では採用が難しいことがわかっていたと想定されるため、調達した資金を使いEV向けの開発を続けながら繋ぎのアプリケーションを探すのだと想定される。このタイミングでは難しかったが、シリーズDまで到達している同社の動きには引き続き要注目である。