自動運転は主に車の外部環境をセンシングするものであるが、同時に車の内部のドライバーや乗員の生体データをモニタリングする技術も開発されている。

これにはいくつかの目的がある。1つ目は、ドライバー観点で見ると眠気やわき見運転などの危険な状態を車が把握し、アラートを出すなどの安全性向上の観点。2つ目はドライバーや乗員の生体情報をモニタリングすることで、車内空間の快適性向上や、将来自動運転化した時にエンターテイメントや健康などの新しい付加価値をつけることである。

今回はドライバーの状態を非接触でモニタリングする技術を開発するイスラエルのベンチャー企業ContinUse Biometricsについて紹介する。

ドライバーの生体データを非接触でモニタリングする技術とは

ContinUse Biometricsは、Bar Ilan University(バルイラン大学:イスラエル)とUniversity of Valencia(バレンシア大学:スペイン)による共同研究の成果を、事業化のために技術移転されてできたベンチャー企業である。

独自の光学系とアルゴリズムを組み合わせたイメージセンサ―システムにより、非接触でドライバーの心拍数、呼吸数、心拍変動を測定することができる。同社によると、1m離れた場所からでも精度よく測定可能であるという。

同社はその技術詳細についてあまり多くを開示していないが、特許からその技術方式の一端を垣間見ることができる。

最近の特許を見てみると、同社は計測のために人体にレーザーを照射する。通常レーザーを光源に用いると、色再現性に優れた高色域が得られる一方で、レーザー干渉によりスペックルと呼ばれる輝く明暗の斑点模様が見られることになる。これはレーザーを利用する上では画質の劣化・ノイズになるものであるが、同社は逆にこのスペックルの変化を解析することで、心拍や呼吸などを測定することを可能にしている。なお、このスペックルは人の動きも当然ノイズになってしまうため、その点も考慮してフィルタリングがされている。

同社公開のYoutubeへの直リンク
スペックルについては概念的にわかりにくいが、この動画にある手首にレーザーを照射して斑点がたくさん生じているのを見ることができる

上記の動画を見ると、実際に人の服の上からでもバイタルデータを取得できている様子がうかがえる。

資金調達ラウンドシリーズBが2018年に完了

同社の資金調達の状況を見てみると、2018年3月にシリーズBを行い、20m$の資金調達を完了したことが発表されている(参考リンク)。このラウンドはシンガポールのプライベートエクイティであるCharterd Groupがリードインベスターとして主導した。

なお、同社はこれ以降特に資金調達の動きについて発表していない。

用途はヘルスケアから自動車にピボットか

過去のContinUse Biometricsの発表内容・ニュースリリースを見ると、ほとんどがヘルスケアの分野であるが、現在HP上のアプリケーションは自動車分野が全面に押し出されている。

元々の出発点は様々なバイタルデータが非接触で測定可能ということでヘルスケアから始まったが、現在は自動車分野での開発に注力をしているように見える。

なお、同社のHP上ではダイムラー、コンチネンタル、豊田通商の3社がパートナーとしているようだ(どのようなパートナーシップかは不明で、双方から発表はされていない)。


ー 技術アナリストの目 -
短期的な用途開発として自動車分野に注力しているようであるが、自動車環境下では走行中の振動成分などもノイズになると思われるため、どこまで精度が出るのか気になるところ。また、心拍と呼吸くらいの生体情報では取得できる情報がやや弱く、心拍変動レベルのパラメーターの精度が大事になる。ドライバーのストレスや眠気の検知の方に踏み込めれば、短期的にDMSに組み込まれる可能性も出てきそうである。