Amazonは2020年8月に、Amazon Haloをローンチした。これはバンド型のウェアラブルデバイスであるAmazon Halo Bandを手首に装着し、専用のアプリで日々の活動をトラッキングする。

Amazon Haloは、現時点では早期アクセスを行い認定を受けた限定的なユーザーにのみ提供されている。そのため完全に一般で市販されているサービスではない。

このAmazonの新しい取り組みには、いくつかの健康ウェアラブルにおける興味深い論点が実験的に試されている。今回はAmazon Haloの内容と、この論点について整理したい。

ついに健康ウェアラブルへ参入したAmazon Haloとは?

シンプルなAmazon Halo Band

Amazon Halo Bandは手首に巻くタイプのウェアラブルデバイスで、スマートウォッチについている時計機能や表示ディスプレイはついていない。ごくごくシンプルなセンシング機能のついたバンドである。

同社のプレスリリースではこう述べられている。

「過去10年間でデジタルヘルスサービスとデバイスが増加したにもかかわらず、米国では健康の改善は見られませんでした。当社は人工知能と機械学習に関するAmazonの深い専門知識を使用して、顧客に新しい発見、採用の方法を提供しています。そしてパーソナライズされた健康習慣を維持します。」と、AmazonHaloの主任医療責任者であるMaulikMajmudar博士は述べている。「健康とは、1日の歩数や睡眠時間だけではありません。Amazon Haloは、最新の医学、Halo Bandセンサーを介した非常に正確なデータ、最先端の人工知能を組み合わせて、健康とウェルネスを改善するためのより包括的なアプローチを提供します。」

同社公開のYoutubeへの直リンク

装着感や装着時の負荷をできるだけ減らすように設計されている

Amazon Halo Bandは、加速度計、温度センサー、心拍数モニター、2つのマイク、LEDインジケーターライト、マイクをオンまたはオフにするボタンなどの機能を備えている。

耐水性があり、快適なフィット感により、夜間に引っ掛かったりイライラしたりすることが無いように設計されている。バッテリーは最大7日間持続し、90分未満で完全に充電される。

Amazon Haloでできること

Amazon Haloでは5つのコア機能がある。

1. 活動量判定

ユーザーの日中の活動に応じて、活動量を判定する。従来のウェアラブルデバイスでは、活動量というと歩数・消費カロリー・運動の時間などを言及するのみであった。一方でAmazon Haloでは、米国心臓協会の身体活動ガイドラインと最新の医学研究に基づいて、1日の活動に対してポイントという形で評価がされる。

例えば、ユーザーはウォーキングでポイントを獲得できるが、ランニングでより多くのポイントを獲得できる。また、医療ガイドラインでは、座りがちな生活は健康に悪影響を与える可能性があることも示されているため、Amazon Haloは、睡眠以外の1日8時間の座りがちな時間に1時間ごとに1つのアクティビティポイントを差し引きます。150アクティビティポイントのベースライン目標が設定されて測定される。

2. 睡眠判定

動き、心拍数、睡眠中の肌の温度を使用して、睡眠時間と覚醒時間を測定する。深い眠り、浅い眠り、REM睡眠などのステージ判定が可能となっている点は他のウェアラブルデバイスと同様だ。就寝から実際に眠るまでの寝つきの時間も取れる点は、デバイスによっては測定できるものとできないものがある。

3. 体脂肪率

通常、体脂肪率を測定するというのは、体重計で生体電気インピーダンスという体の電気抵抗を測ることで体脂肪率に置き換える方法が取られている。しかし、これは1日の水分補給量によって大きく影響を受けることがある。

Amazon Haloで体脂肪率を測定するアプローチは新しい。スマホで自分を撮影することで画像をAIで解析して体脂肪率を測定することができる。

それは大量の画像データで学習された3種類のディープニューラルネットワーク(DNN)を組み合わせている。1つ目のDNNではピクセル単位で人を識別して背景と人を分離する。2つ目のDNNでは体型や脂肪と筋肉の分布など、体の物理的特性との関係性を理解する。3つ目のDNNでは、その人パーソナルな3D体モデルが生成され、モデルを元に体脂肪率が算出されるという流れだ。

通常、体脂肪率の測定は精度が難点であることが多いが、その後のユーザーレビューを見ると体脂肪率の精度が高いということが言及されている(参考記事はこちら)。

4. 声のトーンの解析

この機能が最もAmazonらしいとも言えるかもしれない。

「同社によると、世界的に受け入れられている健康の定義には、身体的だけでなく、社会的および感情的な幸福も含まれます」

という健康の定義から、日常の会話から、機械学習を使用してユーザーの声のエネルギーと積極性を分析することで、他の計測データを補完するという。

Amazonは以前より、Alexaを使ってその人の声から感情状態を推定する技術を特許出願したり、AWS上で感情認識のツールを提供している。声というのは同社にとっては得意な領域である。

関連記事:
【特集】感情や感性を扱うコンピューターの技術「Affective Computing」とは

5. Amazon Halo Labs(ラボ)

サードパーティーから提供されるアクティビティ、睡眠、声のトーン、体脂肪に関する知識コンテンツが提供される。動画の形式もあれば、音声コンテンツもある。

現時点で公開されているサードパーティーは8fit、Aaptiv、American Heart Association、Exhale On Demand、Harvard Health Publishing、Headspace、Julian Treasure、Lifesum、Mayo Clinic、Openfitとなっている。興味深いのはMayo Clinicのような医療機関も入っていることである。コンテンツやパートナーについては定期的に追加される模様。

Amazon Haloが行う実験の論点

これはAmazonがAmazon Haloを通して行う壮大なウェアラブルデバイスの実験であるように見える。まさに健康ウェアラブルデバイスにおける新機軸とも言えるだろう。いくつかの論点を整理していく。

1. ウェアラブルデバイスの装着負担への挑戦

ウェアラブルデバイスは装着負担が1つの課題となっている。スマートウォッチ型のデバイスも必ずしもすべての人が毎日装着してデータを計測するわけではないし、ある程度アクティブなユーザーでも長期間使い続けることに対するハードルがある。

Amazonは今回、デザイン面でできるだけシンプルにしており、表示ディスプレイもついていないため、Amazon Haloは重さ18gとなっている。従来のFitbitやApple Watchはモデルによるがおおよそ30~40gであり、装着負担をできるだけ軽減する狙いがあると考えられる。

2. スコアリングへの挑戦

健康系のウェアラブルデバイスでよくある課題に、「歩数、運動した時間、消費カロリーなどはわかった。しかし、これって結局自分の1日にとって良かったの?悪かったの?」という、データの解釈・目安問題がある。

睡眠については元々、浅い睡眠・REM・深い睡眠の睡眠ステージが判定されるようになり、データを見ただけでは良いのか悪いのかわからないため、各企業が独自のスコアリングを定義してユーザーに提示している。

運動やその他のパラメーターにおいては、こうしたスコアリングというのは従来あまり見なかった。今回Amazon Haloは、活動量についてもポイントという形でスコアの概念に近いものを表示することで、ユーザーにとって今日1日の運動時間と強度は良かったのか、という目安を提示しようとしている。

3. サブスクリプションモデルへの挑戦

ウェアラブルデバイス業界はレッドオーシャンとされ、ハードウェア売り切りモデルからサブスクリプションモデルへの移行を模索する動きが業界全体である。例えば、FitbitはFitbit Premiumという月額会員制サービスを開始した。2020年11月に出たプレスリリースでは、米国でのサービス開始から1年足らずで50万人以上のユーザーが登録したという。

Amazon Haloは99$の初期費用と、月額3.99$のサブスクリプションモデルとなっており、こうした月額課金モデルにチャレンジをする内容となっている。

4. 声を始めとしたパーソナライズされた分析への挑戦

今回、Amazon Haloの特徴の1つに声のトーン分析がある。これはよりパーソナライズな洞察を可能にするものであり、初期ユーザーのレビューでも「興味深いが不気味である」という評価がされている。

こうした、よりパーソナライズ化されていくにつれ、個人のプライバシーとどこまで踏み込むのがユーザーにとって価値を最大化するのか、という論点に一歩踏み込んだものとなっている。


ー 技術アナリストの目 -
まだAmazon Haloの試みは始まったばかりであり、ユーザーも米国の早期申し込みをした限定された人に限られている。まさに上記で挙げたような実験的要素を含む取り組みであり、大変興味深い。コロナウイルスによる影響は、健康・ヘルスケア領域には追い風になる可能性もあり、今後の健康系ウェアラブルデバイスの新しい動きとして要注目である。