以前の記事で、MITの研究者が咳の音声をAIで解析してCOVID-19を検知する技術を研究していることを紹介した。

何かの健康状態を把握・分析するのに声を使うというのは、Vocal Biomarkerと言われている新興領域である。この音声認識×ヘルスケアの領域で、技術開発が進むVocalis Healthを紹介する。

イスラエルベンチャー2社が合併して設立

Vocalis Healthは米国とイスラエルに拠点を持つ、2019年に設立されたベンチャー企業である。まだ設立されたばかりであるが、実はイスラエルベンチャー2社が合併して、設立されている。

1つはBeyond Verbalという声による感情認識からヘルスケア領域に展開しようとしていたイスラエルベンチャー。2つめはHealthymizeという、ボーカルバイオマーカーで喘息、肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの声に影響を与える疾患の遠隔患者管理デバイスを開発していたイスラエルベンチャーである。

Beyond Verbalが公開しているYoutubeへの直リンク
少し古いが、MayoクリニックとBeyond Verbalのプレゼンテーション

上記の動画でわかるように、Beyond Verbalは元々は感情認識から出発していたが、近年はヘルスケア寄りで研究開発を行っており、メンタルヘルスや神経症などの様々な疾患を声をAIで解析することで検知するアルゴリズムを開発していた。

そのため、両社が統合したというのは非常にシナジーのある動きであったと言える。

音声でCOVID-19の感染有無をスクリーニングする技術を開発中

Vocalis Healthは現在、HP上で、音声でCOVID-19の感染有無をスクリーニングする技術を開発するための音声データ収集の協力者を集めている。(同社はボイスドナーと呼んでいる)

この試験は4週間の縦断的研究として構成されており、全体でユーザー1人あたり約15〜20分かかる。iPhoneアプリケーションをダウンロードし、音声サンプルを録音する形でユーザーが参加することができるようだ。

この研究は2020年3月から開始されており、12月内には終了するタイムラインで動いている。なお、被験者数の目標は10万人分の音声データだ。

様々な研究開発が進行中

その他の研究開発パイプラインは以下のようになっている。

同社Webサイトより当社作成

なお、2020年10月には、米国のメイヨ―クリニックと肺高血圧症で臨床研究を実施することを発表している。メイヨ―クリニックとは以前より共同研究を行ってきており、特定の声の特徴と肺高血圧症の関係については抽出しているという。今回の発表は、さらに研究を前に進めるもので、実際のフィールドでの臨床研究に入るもの。

(参考:同社HPはこちら


ー 技術アナリストの目 -
音声認識の応用分野としてヘルスケアの領域が切り開かれようとしている。Vocalis Healthはその中でも有望な、技術開発が具体的に進む1社だ。音声という汎用的なバイオマーカーを使うため、実用化した際には、アルゴリズムの適用範囲は広い。スマホベースのマイクからでも検知できるようになる可能性を秘めるため、インパクトが大きい。同社の今後の動向に注目である。