汗は様々な成分を含むため、まだ実用化できていない次世代のバイオマーカーとして注目されており、いくつかのベンチャー企業と大学研究機関が研究開発を行っている。しかし、汗というその特性上、センサーとして実用化するには課題が多く、簡単には事業化に至らない。

今回は、その中で有望視される1社であるXsensioを紹介する。

スイスのEPFLナノラボから生まれた技術

Xsensioは2014年にスイスで設立された。Adrian Ionescu教授が率いるEPFLのナノエレクトロニクスデバイス研究室(Nanolab)との共同開発により、事業化を推進している。

(ちなみに余談であるが、同社のCTOのHOËLGUERIN氏はEPFLのナノラボでDrを取得しているが、修士号は慶應義塾大学で取得している)

同社が開発しているのは、LAB-ON-SKIN™と呼ばれる指先に乗るような小型のチップだ。皮膚表面の汗から利用可能なバイタルサイン、電解質、代謝物、小分子、タンパク質を活用することを目指している。

EPFLのナノラボで開発されたこの技術は、10,000個の化学センサーアレイが0.1mm2のチップに敷き詰められており、超小型のチップを実現。またピコmol以下の濃度まで検知可能な高感度のバイオセンサとなっており、半導体ファブを使用した、拡張性の高い製造方法でもあるという。

会社はまだシードステージ

現在はまだ製品開発中となっており、会社のフェーズはシードステージであるようだ。2020年4月にシードラウンドの資金調達を行っているが金額については公開されていない。現在の会社のステージから考えると1~数m$というところだろう。

最初の用途はスポーツ向けの模様

そんな同社が最初の用途として狙うのは、スポーツ向けである。Xsensioは2020年5月に行われたSports TechXというアクセラレーターのピッチイベントでプレゼンをしている。このピッチイベントはスポーツテックのベンチャー企業が集まっており、同社はその中の1社だった。

SPORTSTECHXの公開動画への直リンク

Xsensioはそのプレゼンテーションの中で、最初の用途はスポーツ向けで、次に健康(ウェルネス)管理向け、最終的には医療用途を目指すとそのビジョンを語っている。

スポーツ向けでは特に、Dehydration(脱水症状)の検知や、熱中症を検知するための熱耐性・気候順応の状態把握(汗の量や塩分濃度に変化が起こる)などをアプリケーションとして目指していると言及していた。

汗センサは事業化が簡単ではない

実は最近、同社の競合で資金調達フェーズとしては先を行っていたEccrine Systemsというベンチャー企業が倒産したという情報がある。(現時点で真相は不明だが、直近でHPにアクセスができなくなった)

Eccrineも同様のウェアラブル汗センサを開発しており、Xsensioより開発が先行していたと見られていた。以前はウェアラブル汗センサプラットフォームとして、様々なアプリケーションに対応できるとしていたが、近年はアプリケーションを絞り、投薬監視といった領域に特化しようとしていた。しかし、上手く事業化までたどり着かなかった可能性がある。

このように汗センサは事業化が簡単ではなく、センサー屋からすると色々な領域に展開できる可能性はあるが、アプリケーション探しに苦労するという市場である。


ー 技術アナリストの目 -
実はXsensioもCES2020でイノベーションアワードを受賞した以降、新しい発表がないのが気になっている。スタートアップでよくあるのは、技術開発や事業化がうまく行っていない時期は情報の発信量が少なくなるというパターンである。この1月に開催されるCES2021でも同社は出展を見送っているように見え、事業化に苦戦をしている可能性もある。しかし、デジタルヘルスケアの領域で汗というのはバイオマーカーとしては大変興味深いものであり、事業化までたどり着くことを期待して見守りたい。