MEDICAはヨーロッパで毎年11月頃に開催される世界最大の医療機器展示会であるが、今年は初となるオンラインで実施された。出展社は1,500社を超え、オンラインでの参加者は45,000人以上となったという。
注)なお、平常時はおおよそ5,000社、10万人を超える参加者数なので、今年はやや例年に比べると規模が小さいものの、初のオンライン開催としては十分大きな規模と言える

ヘルスケアイノベーションワールドカップとは

そのMEDICAでは、ヘルスケア領域の有望スタートアップを選定し、表彰を行う「Healthcare Innovation World Cup® at MEDICA」というのを実施している。今回で12回にも及ぶこの取り組みでは、興味深い企業が数多く選定されているため、最優秀賞・ファイナリスト合わせた全12社を紹介したい。

最優秀賞を受賞したヘルスケアスタートアップ3社

BeFC:低電力医療機器向けバイオ酵素燃料電池

  • 設立     :2020年
  • 国      :フランス
  • 資金調達総額 :3m$
  • 最新ラウンド :Seed
  • Webサイト  :https://befc.global/

使い捨て医療機器やウェアラブル医療機器が登場しているが、現在使用されているボタン電池やコイン電池の電源は、リサイクルが難しく、毒性があることから、より環境フレンドリーでウェアラブルに適した電源が求められている。これは、今後ウェアラブルデバイス市場が成長するにつれて、より顕在化する問題と見られている。

そこで同社は、紙ベースの超薄型、柔軟で小型の生体酵素燃料電池システムの実用化を目指して開発を行っている。グルノーブル工科大学の教授ジャン・フランシス・ブロック博士がCEOを務める同社は、大学での2年間の研究の上で産業化を目指し企業が設立された。

同社公開のYoutubeへの直リンク

InContAlert:膀胱充満レベル測定を行うウェアラブルデバイス

  • 設立     :N.A.
  • 国      :ドイツ
  • 資金調達総額 :N.A.
  • 最新ラウンド :企業設立前
  • Webサイト  :https://incontalert.de/

膀胱機能障害に悩む人は世界で2億人いると言われている。InContAlertはそうした膀胱の課題を抱える人を対象にしたモニタリングデバイスを開発している。実はこの取り組みはまだ企業設立前であり、ドイツのフラウンホーファー研究所のプロジェクトとなっている。

下着につけるウェアラブルデバイスは、近赤外線を使って、膀胱の様子をセンシングする。膀胱機能に障害を持つと、尿を適切に溜めることができずに漏れてしまったり、また尿の適切な排出ができなくなったりする。常に膀胱レベルをモニタリングすることで、こうした症状に適切なタイミングで対処できるようになるという。

現在はまだ開発中であり、今後フラウンホーファーとして技術をどう事業化していくのかは不透明だ。(筆者としてはフラウンホーファースピンオフベンチャーが設立されるものと想定している)

PKvitality:スマートウォッチ型の連続グルコースモニタリング

  • 設立     :2016年
  • 国      :フランス
  • 資金調達総額 :2.3m€
  • 最新ラウンド :Corporate Round(シード)
  • Webサイト  :https://www.pkvitality.com/

同社については別の記事でも注目ベンチャーとして取り上げたので、こちらを参考いただくのが良いだろう。

連続グルコースモニタリング市場は非常に有望であり、現時点ではマイクロニードル型のパッチ型センサーが急成長している。同社はそうしたマイクロニードルを使ったバイオセンサーをスマートウォッチに組み込むことで、時計として普段身に着けてグルコースレベルを測定できるユーザー体験を作ろうとしている。

ファイナリストに選定されたヘルスケアスタートアップ9社

CRIAM:5Gポータブル血液ポイントオブケア診断デバイス

  • 設立     :2016年
  • 国      :ポルトガル
  • 資金調達総額 :N.A.
  • 最新ラウンド :N.A.(まだシードステージの企業)
  • Webサイト  :http://www.criamtech.com/

2016年に設立された同社は、血液検査をどこでもできるようにすることを目指し、ポイントオブケアの診断を行うための卓上血液分析装置を開発している。まずは同社は血液タイプを診断できるように開発しており、輸血が必要だが必ずしも血液が十分でないケースに備えて、その場で血液検査ができるように装置を置いておくというユースケースを想定している。将来的にはHIVや肝炎、梅毒、髄膜炎など様々な病気を即座に診断できるようにすることを目指しているようだ。

OutSense:便と尿の継続・自律的なモニタリングデバイス

  • 設立     :2015年
  • 国      :イスラエル
  • 資金調達総額 :N.A.(2.2m$以上)
  • 最新ラウンド :SeriesA
  • Webサイト  :https://outsense.co.il/

トイレの便器に取り付けるセンサーアタッチメントにより、便と尿の状態を光学センサーで監視し、得られた画像データをAIで解析して同社が保有するデータベースと照合することにより、健康状態を判定するもの。いわゆる尿検査や便検査を代替することを狙う。

同社によると、結腸直腸がん、尿路感染症、下痢、脱水、便秘といった状態の早期検出を目指して開発されているという。

同社公開のYoutubeへの直リンク

ROWEBOTS:慢性・急性疾患の在宅モニタリング

  • 設立     :1987年
  • 国      :カナダ
  • 資金調達総額 :N.A.
  • 最新ラウンド :N.A.
  • Webサイト  :https://rowebots.com/

ROWEBOTSは1987年に大学の研究者グループによって設立されたIoTコンサルティング企業。設立当初から、リアルタイムマルチプロセッサソフトウェア技術にそのルーツを持ち、今日では組み込みソフトウェアのコンサルティングや実装などを手掛けている。ベンチャー企業というよりは中小企業の方が近いだろう。

同社は今回のアワードにおいて慢性・急性疾患の在宅モニタリングシステムで受賞しているが、詳細は不明。

Innovosens:スポーツや健康のための汗の代謝物分析

  • 設立     :2018年
  • 国      :スウェーデン
  • 資金調達総額 :N.A.
  • 最新ラウンド :N.A.(まだシードステージの企業)
  • Webサイト  :http://innovosens.com/index.html

スポーツや健康のための汗の代謝物を分析するデバイスを開発しているベンチャー企業。HP上は糖尿病患者向けに特化しているように見えるが、今回のアワードでは少し用途を広げて、スポーツ・健康全般での用途として受賞しているようだ。

同社は欧州の研究開発助成プログラムであるHorizon2020にも採択されている。特許取得済みのマイクロ流体システムを通じて、センサーが皮膚から汗を収集し、汗に含まれるバイオマーカーを分析するウェアラブルデバイスを開発。糖尿病患者が血糖値を測定したり、乳酸レベルのリアルタイムモニタリングにより、アスリートやコーチがトレーニングのために使えるという。

Higo Sense Sp:家での診察を実現する遠隔医療ソリューション・デバイス

  • 設立     :2017年
  • 国      :ポーランド
  • 資金調達総額 :N.A.
  • 最新ラウンド :N.A.
  • Webサイト  :https://higosense.com/

家にいても1時間以内に診察を可能にする、をコンセプトに作られた遠隔医療システム・デバイスを開発している。このデバイスHigoは感度の高いカメラと光学システムを備えており、遠くにいる医師が正確に診断ができるように患者の画像を提供することができる。また、肺・胃・心臓の音を聞くことができるデジタル聴診器も備えており、心拍数を監視し、呼吸や咳も分析することができるという。同社のデバイスとシステムを通して、ユーザーは医師と繋がり、デバイスについているセンサーは医師が診断を行うことをサポートする。

同社によると、ポーランドでは電子処方箋が利用可能となっており、今後はEU全体でも電子処方箋が利用される流れになるという。

このデバイスは現在開発中で、2021年第一四半期の開始までにEU10か国で利用できるようになる計画だ。

同社公開のYoutubeへの直リンク

Yoganotch:ヨガのためのウェアラブルデバイス

  • 設立     :N.A.
  • 国      :N.A.
  • 資金調達総額 :N.A.
  • 最新ラウンド :N.A.
  • Webサイト  :https://yoganotch.com/

自宅でヨガを練習するときに、ウェアラブルを身に着け、スマートフォンのアプリからヨガの姿勢などに対して音声フィードバックを提供するパーソナルヨガアシスタントを開発し、販売している。

3DモーションセンサーとAIを使用して、人間の動きの正確な数学的モデルをリアルタイムで作成し、姿勢を判定する。いわゆるモーションキャプチャをヨガ向けコンシューマー用に落とし込んだもの。

同社公開のYoutubeへの直リンク

RespMedical:呼吸器疾患のリハビリ用デバイス

  • 設立     :N.A. (おそらく2018年)
  • 国      :ポーランド
  • 資金調達総額 :N.A.
  • 最新ラウンド :N.A.
  • Webサイト  :https://www.breatherone.com/?lang=en

喘息やCOPDなどの呼吸器疾患を治療するための1つの方法として、呼吸法によるリハビリテーションというものがある。同社はこの治療法に着目し、デバイスとアプリを用いて呼吸法を行うことを実現した。

専用のデバイスを口にくわえて、呼吸法を行うことで、デバイスを通して呼吸状態をモニタリングし、アプリ上のゲームキャラクターが呼吸によって動いたりするという。

Mindpax GmbH:精神疾患用の手首装着型モニタリングデバイス

  • 設立     :2015年
  • 国      :チェコ
  • 資金調達総額 :1.3m€以上
  • 最新ラウンド :Seed
  • Webサイト  :https://www.mindpax.me/

同社はパーソナルな健康や精神状態にとって重要なバイオマーカーをモニタリングするプラットフォームを構築することを目的に、2015年に設立された。その後、精神疾患やADHDの早期診断など、やや的を絞り現在ソリューションを開発している。

今回は、精神疾患用の手首装着型モニタリングデバイスで受賞。同社は患者の睡眠、活動量、投薬量、日々のイベント、主観アンケートをインプットに、医療機関とデータを連携して治療のサポートを行うという。

National Institute for Mental Health(NUDZ)と共同で行った研究では、チェコ共和国とスロバキア全土からの350人の双極性患者と100人以上の精神科医が参加し、200人の患者がすでに18か月の完全な研究期間を完了したという。

MDCN Technologies:よく眠り、ストレス解消するジェスチャー制御ヘッドバンド

  • 設立     :N.A.
  • 国      :米国
  • 資金調達総額 :N.A.
  • 最新ラウンド :N.A.
  • Webサイト  :https://omnipemf.com/

ヘッドバンドを通して神経刺激を与えることで、ストレスを解消したり、スムーズな入眠を促すデバイスを開発している。同社については別の記事でも取り上げており、詳細はこちらを参照。

全体的にシード・アーリーステージの企業が選定

上記12企業を見てきたが、全体的な傾向としては、まだ有名になっていないシード・アーリーステージの企業が多く、ほとんどが現在も開発進行中となっている。

とりわけ、最優秀賞を受賞した3社はある程度市場ニーズが明確で、それに対するアプローチ・切り口もはっきりしており、筋が良いと言えるだろう。他にもOutSenseのような便・尿のモニタリングなども技術が確立されれば健康モニタリングへ与える影響が大きく興味深い。

まだこうした企業の技術が市場に出てくるまで少し時間がかかると思うが、モニタリング対象としては有効である。


2021年に注目すべき、デジタルヘルスの健康・ヘルスケアモニタリングや解析技術の動向について整理した。技術の全体像について知りたい人はこちら。

参考:(特集)2021年デジタルヘルスの技術動向 ~健康・ヘルスケアモニタリング / 解析~