Oura Ringが生体情報をセンシングするデバイスとして有望であることは、過去の記事で紹介した通りである。特に心拍数、心拍変動の検出精度が高い点、リングを通して抹消体温も測れる点がこのデバイスの特徴である。

そのOura Ringを使ってコロナウイルスの感染兆候検知を行う研究が、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)によって「TemPredict」というプロジェクト名で立ち上がっている。これは2020年3月から開始しており、その初期結果が2020年12月に発表された。

コロナウイルスの症状発現と生体データを関連づける研究

TemPredictは、Oura Ringによって収集された心拍数や皮膚温度などの生体データを被験者が測定し、毎日の症状調査への回答と組み合わせて、病気の症状を予測できるかどうかをテストしている研究だ。この研究は、COVID-19のパターン、発症、進行、および回復を特定するためのアルゴリズムを構築することを目的としている。

被験者の数は65,000人以上の大規模な研究となっており、米国の大学病院の3,400人の医療従事者を含む参加者によって構成されている。この研究は米国国防総省が運営するMedical Technology Enterprise Consortium(MTEC)からも支援を受けているものだ。

MTECが支援する他の研究についてはこちらも参照:

このTemPredictはまだ進行中であるが、今回は初期の被験者50人分の分析結果で有効な結果が出たとして、オープンジャーナルのScientific Reportで2020年12月に論文が発表された。なお、この50人はOura Ringを所有しており、全員がCOVID-19に感染していた人となっている。

指先の抹消温度をバイオマーカーとできる可能性が示唆

研究では、症状が現れる45日前からのデータを分析している。結果として、50人中38人は自覚症状が出る前に、抹消温度の発熱が確認されたという。

また、心拍数、心拍変動、RR(心拍の間隔)についてもデータ解析しており、これらのパラメーターは症状と関連はしているものの大まかな相関に留まったようだ。ただし、同論文の中でも、概日リズムの不安定化は、病気の危険因子であり、そして生理学的破壊の初期徴候である可能性があると、他の論文を引用する形で触れている。こうした心拍系の生体パラメーターも使える可能性があることは示唆されている。

今回の結果では、最も相関が高かったのは抹消温度の体温変化であったようであるが、心拍数や心拍変動などの生体データも組み合わせることで、単一データでのアルゴリズムよりもより優れた予測モデルになる可能性も示唆されている。

実用化における課題は個人間の最適化

一方で、実用化に向けては壁があることも触れられている。

それは個人間で概日リズムや体温が異なることである。指先の抹消温度は人による個人差が大きく、例えば一律に38℃で閾値を設けることはできないという。

つまり、人によって症状検知に必要な閾値が異なることを意味しており、実用化においては、こうした生体データの個人差から、予測モデルが調整される必要がある。いわゆるキャリブレーションが必要になるということだろう。

今回はあくまで、概念実証という位置づけでの発表であるが、今後も大規模なデータの分析によってプロジェクトは続いていく。

(関連する論文はこちら


2021年に注目すべき、デジタルヘルスの健康・ヘルスケアモニタリングや解析技術の動向について整理した。技術の全体像について知りたい人はこちら。

参考:(特集)2021年デジタルヘルスの技術動向 ~健康・ヘルスケアモニタリング / 解析~


ー 技術アナリストの目 -
指先の抹消温度に加えて、心拍・心拍変動を組み合わせてCOVID-19の感染兆候検知ができれば、まさにOura Ringのセンシング特徴が生きるアルゴリズムとなる。通常、心拍・心拍変動に加えて抹消温度が測定できるデバイスはあまりなく、またOuraは心拍・心拍変動のセンシング精度が高いことも特徴だからだ。そしてもう1つ面白い点はMTECがハブになって、一気に政府機関の資金支援で、こうしたウェアラブル解析の研究が進んでいることである。日本においてこうした動きはほとんどなく、米国を中心にデジタルヘルスケアの領域は増々イノベーションが進むであろう。