近年、自動車やヘルスケア、金融分野など、AIではその処理において、エッジで大量の、しかも異なる種類のデータをリアルタイム処理することが求められている。そのため、並列で大規模な計算が得意なGPUが採用され、現在NVIDIAがこの業界をリードしている。

しかし、そうしたNVIDIAに挑戦しようとしている急成長ベンチャーがいる。それがGraphcoreだ。同社は2020年12月29日、222m$もの資金調達をシリーズEで行ったことを発表した。今回の資金調達はオンタリオ州教職員年金基金がリードインベスターとして、Fidelity International、Schrodersなどの新規投資家を加え、BMW i VenturesやRobert Bosch Venture Capitalなどの既存投資家も参加している。

NVIDIAの挑戦者となるGraphcoreとは

Graphcoreの設立は2016年であるが、始まりは2013年Q4まで遡る。プロジェクトは当初ステルスモードで始まり、開発を続けて約3年後の2016年に英国で会社が設立された。

同社はBoschが主導するSeriesAで32m$を調達し、一躍有名となったが、先に大きくなったNVIDIAの裏で徐々に成長し、現在はダブルユニコーンを超えた(時価総額で20億ドル=おおよそ2,000億円以上)と言われている。

同社のインテリジェントプロセッシングユニット(IPU)は「高度で複雑なモデルにおいて特に機能する」とされている。各IPUに含まれるタイルと呼ばれる1,216個の処理要素によって超並列処理を行うことができる、MIMD(Multiple Instruction, Multiple Data)であることが特徴だ。

共有メモリを持たず、ローカルメモリを持ち、それぞれのタイルであくまで処理を完結する。通常のGPUでは数千個の演算コアが搭載されているが、比較的シンプルな計算に限定されており、メモリもチップ全体で共有されている。同社はローカルで256KiBのメモリを持ち、MIMDで実行できるため、複雑な処理が効率的に処理できる。 結果として、NVIDIAのペタフロップスあたりの処理より低コストで処理が可能であるという。

BMWやBoschなど様々な戦略投資家が出資

同社には様々な事業会社系の戦略的投資家が出資をしていることも特徴だ。2016年にシリーズAを行い、同社がステルスモードから姿を現した際に、ロバートボッシュ、サムスン、Dellらのベンチャーキャピタル部門が出資を行い、のちにMicrosoftやBMW i Venturesなども出資を行っている。

Graphcoreは今回の調達した資金を、IPUのハードウェア・ソフトウェアのさらなる開発や、グローバル展開の加速に活用するという。


ー 技術アナリストの目 -
すでに時価総額で2,000億円を超える同社は、今回の資金を使って更に事業成長が加速すると想定される。自動運転だけでなく、大量データをエッジで並列処理することが求められるのはヘルスケアや金融、ロボティクスなど、用途は広がるばかりだ。NVIDIAによるARM買収で、やや寡占化が進みつつあるGPUにおいて、こうしたライバルが成長するのはユーザーにとっては良いことだろう。