今年だけではなくここ1~2年のCESのトレンドとなっているが、室内や屋外において空気質を見える化する技術が今年も色々と展示されていた。どのような展示があり、アップデートは何だったのかレビューしてみよう。

空気質センサが注目される背景

空気質センサーは以前より存在している。一番ポピュラーなものでいくとPM10やPM2.5を測定するものであろう。大気汚染状態をセンシングすることができるもので、これは環境計測などで使われている。

一方で近年、センサーの小型化と低価格化により、家庭内などの屋内で使うタイプの空気質IoTセンサーが登場している。中でも技術的に優れているものでは、ppmではなくppbレベル(10億分の1)で測定できるものも出てきており、かつ複数の空気中成分を同時に測定できるものとなっている。

そうした背景から、毎年CESでもイノベーションアワードでこうしたデバイスがいくつか受賞している状況だ。

では、今年はどうだったのだろうか、いくつかのスタートアップの製品を見てみよう。

Nanoscent:香り・様々なVOCを認識するセンサーチップ

Nanoscentは2017年にイスラエルで設立されたベンチャー企業である。テクニオン工科大学発のベンチャー企業である同社は、長年テクニオンで研究された技術を元に事業化を目的として設立された。

同社はこの数年CESに出展をしており、以前はチップ上のセンサーで原理検証をしていたことを記憶している。毎年着実に製品開発を着実に進めて、実用化に近づいている印象だ。

Nanoscentの特徴は、分子レベルの様々なVOC成分を香り・においとして認識することができることである。同社はこの技術をVOCID™と呼んでいる。いわゆる電気化学式のセンサーと機械学習によりVOC成分を識別する。

今年の新しい点は、実際にある程度技術が進み、製品開発が進んでいるところだろう。昨年のCOVID-19により激変する市場環境の中、同社はCOVID-19を呼気から検知するデバイスを開発していることを発表した。同社への取材では、CES2021の現時点ではまだ開発中とのことで、現在米国FDAの承認へアプライしているとのこと。具体的なタイムラインについてはわからないという回答であった。

画像クレジット:Nanoscent
同社が開発中のCOVID-19を呼気からセンシングするデバイス

AirThings:空気中のラドン濃度検知やウイルスリスク評価のセンサデバイス

ラドンは放射性気体の一種で、無色無臭で空気中にわずかに存在している。このラドンは呼吸によって体の中に取り込まれるが、肺がんの原因になることがあるという。米国では毎年米国で15,000〜22,000人の肺がん死がラドンに関連していると推定されているようだ(参考記事)。

AirThingsはそうした身近な空気質におけるラドンに着目した。ラドンモニターは日本においても測定装置のような形では販売されているが、こうした個人が手軽に使えるデバイスにしたのが同社の特徴となっている。このデバイスは2019年のTIMEマガジンのInvention of the yearに選出されている。

また、同社が今年のCES2021でイノベーションアワードを受賞したデバイスは、新しい製品となっており、建物内のウイルスリスク指標を検知できるものとなっている。なお、空気中のウイルスを検知する技術というのは技術として非常に難易度が高い。そのため、同社はあくまでウイルス感染しやすい環境を「ウイルスリスクインジケーター」として評価しているようだ。

これは、CO2、湿度、温度を追跡するAirthingsコアセンサーからのデータを使用して、屋内空間に広がる空中ウイルスのリスクを計算している。ウイルスリスクインジケータは、屋内の空中ウイルス拡散と関係がある4つの要因を評価し、1から10の範囲のランク付けされたリスクレベルを割り当てる。例えば、部屋の占有率や換気率、温度と湿度から影響されるウイルスへの防御力などをサブ指標として使っている。

画像クレジット:Airthings Press Kit

AerNos:クラス最高のセンサ×AIによるホーム空気質モニタ

AerNosは2016年に米国で設立されたベンチャー企業である。独自に開発した技術を元に、ナノガスセンサーを開発している。同社はCESではイノベーションアワードの常連となっており、CES2019から今年まで3年連続でアワードを受賞している。

同社の検出精度は他のセンサーの群を抜いており、複数のガスを同時に10億分の1(PPB)レベルで検出できることが特徴だ。

過去のCESからの流れで見ると、CES2019(センサチップ)→CES2020(センサモジュール)→CES2021(ホーム空気質モニタデバイス)となっており、チップから始まりついにアプリケーション側のデバイスに行きついた形となっている。

残念ながら今年はブース出展は無く、イノベーションアワードへのエントリーのみとなっているため、詳細は不明だが、イノベーションアワードを受賞した「AerHome」は、ナノガスセンサー、クラス最高の環境センサー、人工知能(AI)ソフトウェアを組み合わせて、家のすべての部屋の空気の質の全体像を提供するデバイスとなっている。現時点では販売はされていないようで、まだHP上にも未掲載だ。

Saam Inc.:大気質、煙、火災、ガスと複数センサー機能を1つに統合したセンサデバイス

Saamは1998年に米国で設立された。手頃な価格の空気質、煙、火、ガス、化学物質の検出が可能なスマートデバイスの設計と実装を行っている。光散乱粒子センサーと融合した特許取得済みの吸収分光法を利用し、空気質をモニタリングする技術を開発。

今回のCES2021では新開発の次世代Sシリーズの製品がイノベーションアワードを受賞している。この次世代製品の特長は、大気質、煙、火災、ガスという通常は複数に分かれているセンサーを、その吸収分光法とアルゴリズムにより1つに統合したことである。

通常、分光法はその機構上サイズが大きくなりがちで、また検出レンジも課題となることが多い。同社は独自の光学設計により光学スペクトル機器のサイズを3インチに縮小し、コストを大幅に削減することに成功したという。

画像クレジット:Saam Inc.

なお、現時点で大気中の化学物質については、CO、CO2、炭化水素、シアン化水素の検知が可能となっており、地域に応じて別の化学物質の検知(花粉、ダニ、カビの胞子などの粒子)を追加するようなカスタマイズも可能ということであった。

ターゲット価格は249$であり、ビジネスモデルはBtoBになるという。(ただし、消費者は同社のWebサイトから直接購入ができるようになる可能性もあるとのこと)


ー 技術アナリストの目 -
他にもいくつも空気質モニタリングデバイスが展示されていたが、上記はいくつか特徴的なものを取り上げた。コロナウイルスにより、施設やホームでの空気質のモニタリングは注目されているように見える。また、匂いセンサーを応用して、呼気からCOVID-19の検知を行うNanoscentなど、特徴的な技術も出てきている。こうした空気質の見える化は当面、注目されるであろう。ただし、この分野は古くて新しい技術であり、1年で大きく変わることは通常無い。数年単位で技術が成熟していくのを見る必要がある。