昨年はLiDARを開発するベンチャー企業でSPACも含めた大型資金調達のニュースが相次いだ。残念ながら昨年ほどLiDARベンチャーの出展があったわけではないが、それでもいくつか新しい発表もあった。

それでは、どのようなLiDARベンチャーの出展があったか整理していこう。ここでは新しい発表があった企業について取り上げている。

Blickfeld:自動車用長距離MEMSスキャンLiDARを発表

ミュンヘンで2017年に設立されたベンチャー企業で、LiDARの中では後発勢に位置する。すでに同社はCUBEという産業用LiDARを商業的に発売しているが、今回のCESではこれまで取り組んできた自動車のラインナップを整理して改めて発表した。

同社の特徴はスキャン機構にMEMS方式を取り入れたソリッドステートLiDARで、特にサイズがコンパクトな点、またMEMS方式LiDARはミラーを小型化しているため視野角が狭くなる課題を解決し、広視野角となることを目指して開発を進めている。

自動運転用のBlickfeld Vision Miniは、5cm角の小型サイズであり、かつ水平FOV107°で最大150mの検出距離を実現する。ただし、自動運転で高速道路で使うには200mは検出距離が欲しいところだ。そこで同社はBlickfeld VisionPlusという補完製品も開発している。車両の前後でVisionPlusを使うことで、検出距離は最大200mを実現し、レベル2+以上の自動化が可能になるという。

画像クレジット:Blickfeld(出展ブースより)

今回、CES2021ではさらにMEMSスキャニングモジュール118という、LiDAR用のユニット(部品モジュール)が発表されていた。FMCW(周波数変調方式)ベースのデバイスで使えるMEMSスキャニングで、同社はLiDARの完成品ユニットだけでなく、部品モジュールも展開しようという意図のようだ。

SOSLAB:大型商用車向けのソリッドステートLiDARのプロトタイプを発表

SOSLABは2016年に韓国で設立されたベンチャー企業だ。現在シリーズAが完了しており、15m$を調達している。SOSLABもLiDARにおいては後発勢だ。

同社はカスタマイズされたVCSEL(垂直共振器面発光レーザ)と呼ばれる特殊な光源と光学レンズ技術により、可動部のないソリッドステートLiDARを実現。オン・セミコンダクターと提携して、同社の高解像度SPADを使用していると言われる(※)。
※なお、ams・Ibeo連合も同方式を採用している

今回のCES2021では、昨年から限定された戦略パートナーにのみサンプル出荷をしてきたMLシリーズについて正式に発表。CES2021イノベーションアワードを受賞したML-2は大型商用車向けとなっており、特徴として幅広い視野角(FOV 180°×45°)を持つ。ただし、課題は広視野角の場合検出距離が短くなるようで、反射率10%で40mとなっているため、現時点のスペックでは用途は限定される。

2022年のソリッドステートLiDARの大量生産を目標として、今後、追加の資金調達を予定しており、今年の後半までに製品性能の検証と自動グレード認定を完了する予定しているという。

画像クレジット:SOSLABプレスキット

Robosense:自動車グレードの高性能ソリッドステートLiDARの量産モデルを発表

Robosenseは2014年に中国深圳で創業されたベンチャー企業で、LiDARセンサー、AIアルゴリズム、ICチップセットを組み込んだスマートLiDARセンサーシステムを開発している。

近年、LiDAR業界で先行するVelodyneと知財紛争が起きていたが、2020年10月にグローバルでのクロスライセンス契約を締結するということで決着がついている。

毎年のCESの常連で、2019年、2020年と同社のMEMSソリッドステートLiDAR(RS-LiDAR-M1)は出展及びイノベーションアワードの受賞が続いていた。今年はアワードの受賞は無かったが、CES2021に合わせてこれまで開発してきた自動車グレードのMEMSソリッドステートLiDARの量産モデルを正式に発表した。

M1の検出能力は10%の反射率で150m以上となる(なお、車両が対象の場合は最大200メートル)。平均解像度は0.2° x 0.2°(水平×垂直)、FOV120° × 25°(水平×垂直)の超広視野で、毎秒0.75Mピクセルポイントの高解像度を作成することができる。特に今回発表された量産モデルでは、前回のモデルに比べてサイズが縮小されており、108mm(奥行き)×110mm(幅)×45mm(高さ)となっている点が新しいようだ。

画像クレジット:同社プレスキットより

Cepton:量産100$未満の小型LiDAR Novaを発表

Ceptonは2016年に米国サンフランシスコで設立されたベンチャー企業だ。あまり派手な露出は無いが、同社の技術は独自路線を進んでおり興味深い。

小糸製作所からも出資を受けた同社のLiDARは、特許取得済みのMMT(Micro Motion Technology)という独自技術で、従来のモーターを使わず、またMEMSなどのミラースキャンも不要としている。そのため、機械的な摩耗が無く耐久性に優れたシンプルな構造であるため、高い信頼性、量産性、コストの両立が可能な特徴がある。

今回のCES2021では、小型のLiDARセンサーであるNovaを発表。構成に応じて水平FOV90〜120°、垂直FOV60〜90°の広視野を備えた高解像度3Dイメージングであり、ターゲットサイズは3.5cm(W)x 3.5cm(H)x 7.5cm(D)で、重量が350 g未満の超小型タイプとなっている。角度分解能は最大0.3°、最大範囲は最大30mであるため、ADASや死角検出、近距離での小さい物体検知、自動駐車アシスト、車両のフリースペース推定などの用途に適しているという。

この超小型で100$未満のセンサーNovaは2023年に量産開始できるように開発を進めているようだ。

画像クレジット:同社プレスリリースより

MobileyeもLiDARに参入を発表

上記の海外スタートアップ以外では、Mobileyeにも触れておく必要があるだろう。

Mobileyeはこれまで単眼カメラや複眼カメラをベースにした自動運転認識システムで世界をリードしてきたが、今回LiDARとレーダーの開発も行っていることを明らかにした。

Mobileyeの発表については、また別の記事で掘り下げたい。

他の企業はどうだったのか?Velodyne、AEye、Innoviz、Ibeoなど

上記、今回特に新しい発表のあったLiDARベンチャーを取り上げてきたが、他の有名ベンチャー企業はどうだったであろうか?

一通り有名なLiDARベンチャーは全てチェックしたが、以下の通りであった。

企業名出展状況新発表の有無
Velodyne出展無し(カンファレンスのみ)新発表無し
Luminar Technologies出展あり新発表無し
LeddarTech出展あり新発表無し
AEye出展あり新発表無し
Innoviz出展あり新発表無し
Ibeo出展あり新発表無し
Quanergy Systems出展無し
Hesai Technology出展あり新発表無し
Livox出展無し
CES2021調査・取材より当社作成

また、上記以外にも日本勢ではパイオニアが2020年12月に発表した量産を開始するMEMSソリッドステートLiDARや3Dマップテクノロジーなど、同社のコンセプトをソリューションとしてまとめて発表を行っていた。J-Startupで展示をしていたSteraVisionはFMCWライダーを開発、出展をしている。

CES2021のLiDARをまとめると

昨年に比べると技術面での新発表は少ない

CES2021のLiDARをまとめると、昨年SPAC上場の話題が大きく上がったため、それに比べると技術的な進展の話題はやや少なかった印象だ。

非SPAC勢のソリッドステート発表が相次ぐ

BlickfeldやSOSLAB、Robosense、Ceptonなどの非SPAC勢で新製品や量産タイプの発表が相次いだ。SPAC勢はIPOの準備に向けて製品ロードマップなども公開しているため、このタイミングでの新製品発表は特になかったということのようにも見える。

市場は激動真っ只中

ただしLiDARの市場自体は現在激動真っただ中であり、CES2021の発表だけを切り取って動向を述べるべきではないと感じる。各社でソリッドステートLiDARの開発競争が行われており、今回のCESでもそうだったように、小型かつ広視野角、ロングレンジの検出ができるように仕上げようと各社が開発を進めている。


MEMS LiDARやFMCW LiDAR、フェーズドアレイなど、方式別の技術動向や特徴について知りたい方はこちらも参考。

参考記事:(特集) 車載LiDARの技術動向 ~種類・方式の特徴と全体像~


ー 技術アナリストの目 -
上記で述べたように、LiDARの観点ではCES2021で最も大きな話題はMobileyeによる参入だろうか。他の海外ベンチャー側で大きな発表は無かったものの、着実に技術開発の進展を感じることもできた。SPAC上場勢に対抗するように、HesaiもIPOを検討しているといったような報道もあり、今年もLiDARは激動の業界となると想定される。これからも継続的にモニタリングしていきたい。

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