米国シリコンバレーに位置するサンノゼで設立された後発のレーダースタートアップであるZadar Labs Incがシードでの資金調達で5.6m$を調達したことを、2021年1月26日に発表した。

シードラウンドをリードしたのは個人投資家のTim Kentley Klay(元Zoox CEO)で、他に参画したのはレスリーベンチャーズ、ジェフロスチャイルド、プラグアンドプレイ、メンターズファンドとなっている。

後発レーダースタートアップのZadar Labs とは?

同社は2019年に設立されたばかりであり、すでに競争が激しくなっている自動運転車のレーダーに参入するというのはかなりの後発となる。

しかし、注目に値するのはZadar Labsに今回シードで出資をしたのが、元Zoox CEOのTim Kentley Klay氏であることだ。Tim Kentley Klay氏は、Zooxを4年間率いて800m$を調達した後、経営方針の違いによりCEOを解雇され、現在はZooxのライバルとなり得る自動運転スタートアップのHYPR.AIを設立している(※1)。

Zadarを設立したCEOのMahmoud氏も実はZoox出身である。スタンフォードで博士号を取得後、Lyft、Zoox、Appleで自動運転プロジェクトに従事した後、この会社を設立している。Mahmoud氏がStitcher(ポッドキャスト番組)で語ったところによると、「現在市場はLiDAR、特にソリッドステートLiDARの方へ大きな動きを見せているが、その信頼性の観点からRadarにはまだチャンスがある」ということであった。

LiDARに匹敵する解像度で400mの検出距離を目指す

同社のレーダーの特徴は、独自の信号処理アルゴリズム、AI画像処理技術、アンテナ設計により、天候に影響されず、電力効率が高く、距離が数百mであり、数百ドルの低価格で、高解像度を実現するという。

同社公開のYoutubeへの直リンク
250mでのロングレンジで検出が上手くできていることがわかる

現在の同社がサンプル提供している製品のスペックは以下の通りだ。

長距離レンジ:zPRIME(開発中であり、2021年にローンチ予定)
 - Azimuth FOV:±55°
 - Elevation FOV:±12°
 - Max Range:400m

ミッドレンジ:zSIGNAL(サンプル提供中)
 - Azimuth FOV:±55°
 - Elevation FOV:±12°
 - Max Range:250m

短距離レンジ:zPROX(サンプル提供中)
 - Azimuth FOV:±60°
 - Elevation FOV:±60°
 - Max Range:20m

なお、同社が利用しているレーダーの周波数帯であるが、製品紹介のHP上は公開されていないが、同社のエンジニア募集の要項を見ると77GHzでセンシングを行っているようだ(※2)。この77GHz帯は近年量産が相次ぎ、すでに市販されているレンジであり、周波数帯自体には特に新規性は無さそうである。

また、同社主張によると、400mの検出距離でLiDAR並みの解像度を目指すとしているが、解像度に関する情報は現時点では見つからなかった。なお、下記の公開されているショートレンジでのポイントクラウド(点群)を見てみると、問題なく市街地を走行している様子が伺えるが、他のスタートアップが開発するRadarと比較して解像度が高いかどうかはわからないレベルだ。

同社公開のYoutubeへの直リンク
ショートレンジでのポイントクラウドがわかる

ただし、同社はまだシードステージであり、これからの開発でどのように発展するかポテンシャルが不明な点は留意する必要がある。


ー 技術アナリストの目 -
同社が狙うのは比較的安価で(量産時、数百$レベル)、長距離レンジの検出が可能であり、長距離レンジの範囲ではLiDARと大きく変わらない点群密度を持った、天候に左右されないセンサーという立ち位置なのかもしれない。いずれにせよ現時点ではまだあくまでシードステージであり、このフェーズは公開されている情報が少ない。同社の特許も調べたが特に見つからなかった。その実力はまだ未知数だが、元Zoox CEOのTim氏が投資をリードしたのは非常に興味深く、技術ポテンシャルはある可能性がある。まだステルスフェーズに近く、今後の情報公開に期待したい。

参考文献 ※1 Tim Kentley Klay氏の個人ページ(リンクはこちら
     ※2 Zadar Labsの人材募集要項ページ(リンクはこちら