血中のグルコースや血圧を測定することを狙って非侵襲ウェアラブルデバイスを開発しているベンチャー企業のMovanoがIPOを申請し、最大で41m$の資金調達を行うことがNasdaqのニュースとして取り上げられている。

現在、技術開発中のアーリーステージのMovanoの技術について見ていこう。

RFを使った非侵襲ウェアラブルデバイス

Movanoは2018年に設立されたばかりのアーリーステージベンチャー企業だ。米国サンフランシスコに拠点を置いている。

Movanoが開発している技術は、RF(電波)を使ったものである。同社はまだアーリステージであるため、ほとんど技術情報について公開していない。そのため、特許なども含めて断片的な技術情報となるが、まず、同社が開発したのは指先に乗るような微小のRFチップを使い、スマートウォッチ型のウェアラブルに搭載しようとしている。

同社の特許US10874314B2(※1)によると、122~126GHzの高周波、いわゆるサブテラヘルツ波を利用している。現在、RFを生体センシングで使う場合は、体表面に高周波をあてて、心臓の拍動によるわずかな体表面の変化を検出するものとして、24GHzなどのマイクロ波領域が使われていることが多い。また、もう少し周波数帯の高い領域では、自動車のレーダーセンサーなどで実用化されているのは77GHzや79GHzなどのミリ波だ。そこで、一部のベンチャー企業や研究機関でさらに高い周波数帯のサブテラヘルツを使った生体センシングが模索されている。一般に周波数帯がサブテラヘルツである方が、分解能が高く、より精度の高い心拍数や呼吸数の検知が取得可能であるとされる。
(補足)ただし、通常、高周波数帯になればなるほど体内組織への浸透度は落ちると言われており、サブテラヘルツの周波数帯が、グルコースや血圧モニタリングにどのように適合するかは不明である。

類似技術を持つ企業としては、イスラエルのスタートアップであるNeteera Technologiesが130GHzのサブテラヘルツを使ったバイタルモニタリングに取り組んでいる。

上記のテラヘルツに加え、Movanoの技術の特徴のもう1つは、マルチバンドセンサーとなっている点である。これは、122~126GHzの高周波数帯だけでなく、2~6GHzの周波数帯も並行して使う。なお、122~126GHzはダウンコンバートして120GHzにして、2~6GHzはアップコンバートして20GHzにしてセンシングに使っている。

ただし、いずれにせよ現時点ではまだアーリーステージであり、臨床データなども公開されていない。上記のような特徴によってどのような性能が実現されているかは不明である。

現在、新興市場へのIPO申請中

同社はまだ設立されて3年程度しか経っていないが、前回の資金調達ラウンドまでで総額30m$近くもの資金を調達したという(※2)。これは資金調達のスピードとしてはかなり速い。

また、同社は現在米国新興市場ナスダックにIPO申請中となっている。このIPOによって調達できる金額は最大41m$になるという。

Nasdaqのニュース(※3)によると、同社は現在、2021年第二四半期にFDA 510(k)認可に向けた極めて重要な試験を実施する予定しているという。


2021年に注目すべき、デジタルヘルスの健康・ヘルスケアモニタリングや解析技術の動向について整理した。技術の全体像について知りたい人はこちら。

参考:(特集)2021年デジタルヘルスの技術動向 ~健康・ヘルスケアモニタリング / 解析~


ー 技術アナリストの目 -
急速に資金を集めるスマートウォッチ型の非侵襲グルコース・血圧モニタリングベンチャーであるが、この会社がこれまでのように、資金を集めるも上手くいかないで終わるのか、何か新しいブレークスルーを生み出すのかはもう少しフェーズが進まないとわからない。一点懸念は、通常サブテラヘルツなどのような特殊な周波数帯を使う場合は、その装置(発信、受信、フィルタ、制御板等)を小さくすることが必要だと考えらえるが、同社はどうするつもりなのか、という点である。Neteeraも数年前に展示会で同社の製品を見た際には、サブテラヘルツのレーダーは数年かけて小さくしていく、ということであった。いずれにせよ興味深いことには間違いないので、引き続き定点観測が必要である。

参考文献

※1 特許US10874314B2

※2 前回資金調達時のプレスリリース(リンクはこちら

※3 ナスダックのニュース(リンクはこちら