これは大変興味深い。なぜならば、今回出てきたAktiiaの技術は何かの拍子に気まぐれで出てきたのではなく、15年間の研究の成果を元に事業化されようとされており、医療バックグラウンドも強いチームだからだ。

2021年1月26日、Aktiiaは同社のブレークスルーデバイスである血圧モニタリングウェアラブルで欧州におけるクラスⅡa医療機器としてCEマークを取得したと発表した。

血圧ウェアラブルデバイスを開発するAktiia

Aktiiaは、2018年5月にスイスで設立されたベンチャー企業である。ごく最近に設立されたばかりの同社であるが、その技術開発の始まりは2004年に、Aktiiaの共同創業者がスイスのCSEM(Swiss Center for Electronics and Microtechnology)でカフレスでの血圧モニタリング技術の開発を開始したところに遡る。また、同社CTOのJosep Sola博士はカフレス血圧モニタリングのパイオニアであり「The Handbook of Cuffless Blood Pressure Monitoring」の編集者でもある。

(参考)CSEMはスイスの非営利の官民研究開発団体であり、日本で言う産総研に近い。マイクロテクノロジー、ナノテクノロジ―、エレクトロニクスなどの専門家が在籍し、応用研究開発と委託研究開発を行っている。

Aktiiaが開発したのは手首につけるバンド型のウェアラブルデバイスで、光学センサ(発光素子は緑色の波長帯505nm~555nmあたり)を搭載している。心拍により発生する動脈の直径の変化を分析することができる。一見すると、よくあるPPG(フォトプレチスモグラフィー)方式のウェアラブルデバイスであるが、同社が開発したウェアラブルデバイスは、100万件を超える光学測定で開発されたアルゴリズムを使い、5つの臨床試験と20以上の査読付き論文でもレビューされている。

同社公開のYoutubeへの直リンク

「正確な血圧測定、特に24時間年中無休の血圧モニタリングは、高血圧の診断と管理を改善し、それによって患者の健康状態を改善するために重要であるとますます認識されています。患者に警告することなく、長期間にわたって血圧を追跡することは、高血圧の診断とモニタリングにおける潜在的なゲームチェンジャーです。」と、インペリアルカレッジロンドンの予防的心血管医学の教授であるNeil Poulter氏は同社のプレスリリースで述べている。

測定精度はどうなのか?

それでは精度はどの程度か、見てみよう。

2020年4月にBlood Pressure Monitoringというジャーナルの論文(※1)と、2020年11月にEuropean Heart Journalの論文(※2)で、スイスの病院とテネシー大学の協力の元、精度比較試験を行った結果が公開されている。なお、この2つの論文では同じデータが使われている。

30代~80代の男女、合計31人を対象として実験を行い、最終的にはデータ品質が適合した16人の被験者における326件のデータで動脈カテーテルで測定したデータと比較している。結果は収縮期血圧(SBP)で±7.1mmHgの平均差となり、拡張期血圧(DBP)で±2.9mmHgとなったという。

この結果はある程度の精度が出ていることが、上記の実験環境においては証明されたものの、65歳以上の場合にSBPの誤差が拡がるようで、追加の実験が必要であることにも触れられている。

参考)収縮期血圧(SBP)とは、血液を押し出すために心臓が収縮し、押し出された血液によって大動脈の血管壁に圧力がかかっている状態であり、拡張期血圧(DBP)とは、心臓へ血液が戻ってきている状態で、心臓が血液によって拡張し、大動脈の血液量が減ることから血管壁にかかる圧力は低下している状態。通常、血圧の評価はSBPとDBPを合わせて使う。

血圧モニタリングの精度をどのように見るか、であるが、米国のAmerican Heart Associationにおいて、そのガイドラインを示そうとする論文が出ているため、参考にしてみよう(※3)。このガイドラインによると、大まかにはデバイスでの計測による血圧の誤差が測定データの85%で10mmHg以下であること、実験規模は85人程度の被験者がいること、となっている。このガイドラインと照らし合わせると、Aktiiaのデバイスは精度は悪くない結果であるが、現時点ではまだ被験者のデータ数が少ないという状況だと想定される。

現在、英国で事前予約中

このデバイスは、CEマークの取得に合わせて2021年1月26日から英国で事前予約を受け付けており、デバイスの標準価格は199ポンド(約28,000円)となる。また、どうやらアプリを通しての継続的な血圧モニタリングは月額で利用料がかかるようで、初月以降は月8.99ポンド(約1,300円)かかる。出荷予定日は2021年3月となっている。

まずは英国から販売が始まる予定だが、今回のCEマーク取得で、同社のデバイスは40か国でアクセスが可能になる。今後、順次販売対象国を増やしていくと想定される。

(今回のプレスリリースはこちら


2021年に注目すべき、デジタルヘルスの健康・ヘルスケアモニタリングや解析技術の動向について整理した。技術の全体像について知りたい人はこちら。

参考:(特集)2021年デジタルヘルスの技術動向 ~健康・ヘルスケアモニタリング / 解析~


ー 技術アナリストの目 -
これまでカフレスで血圧モニタリングのデバイスでCEマークを取得できたのは、筆者の記憶では本メディアでも記事にしたイスラエルのBiobeat(ただし、スマートウォッチだけでなくパッチも合わせて使う)、同じくイスラエルのCNOGA MEDICAL(光学センサだが、ウェアラブルではない)、そして米国のCareTakerという手首と指につけるタイプのウェアラブルを開発するベンチャー(手首から指にワイヤが必要)あたりである。どのデバイスも使うのに一癖あり、Aktiiaのように完全なバンド型のウェアラブルでのCEマーク取得はあまり例を見ない。(ただし、この点を網羅的に調査したわけではないため、注意)今年はCES2021でValencellもカフレス血圧で発表を行っていたこともあり、ウェアラブルでの血圧モニタリング技術の実用化は大注目のポイントとなっている。

参考文献:

※1 Accuracy testing of a new optical device for noninvasive estimation of systolic and diastolic blood pressure compared to intra-arterial measurements, Blood Pressure Monitoring April 2020 – Volume 25 – Issue 2

※2 Cuffless systolic and diastolic blood pressure estimation at the wrist via an optical device: comparison to intra-arterial measurements, European Heart Journal, Volume 41, Issue Supplement_2, November 2020

※3 A Universal Standard for the Validation of Blood Pressure Measuring Devices, Association for the Advancement of Medical Instrumentation/European Society of Hypertension/International Organization for Standardization (AAMI/ESH/ISO) Collaboration Statement, February 9, 2021