2021年2月16日、心電(ECG)センサを展開している米国ベンチャー企業のAliveCorが、製薬大手企業であるアストラゼネカと、非侵襲なカリウムモニタリングの開発で協業を発表した。

アストラゼネカは心臓血管、腎臓、代謝の治療分野(総称してCVRM:Cardiovascular, Renal and Metabolism)における新しい疾患管理ソリューションを研究している。今回の協業により、採血する以外でのカリウム測定を可能にするAliveCorのセンシング技術を活用し、実際の疾病管理として実装されることになる。

AliveCorの非侵襲カリウム測定技術

AliveCorは据え置き型のECGモニタリングデバイスを開発しているベンチャー企業。心電分野では非常に先進的であり、昨年11月にシリーズEの資金調達を行い、資金調達の総額は150m$を超えた。

下記の動画にあるように、据え置き型のデバイスに指を置くことで心電を簡易に測定することができる。最近Apple Watchなどのウェアラブルデバイスでも心電を測定し、不整脈の可能性を検知することができるアプリが出てきているが、特にAliveCorの特徴は、さらに詳細に、不整脈の様々な種類を検出することができるハードとアルゴリズムにある。

同社公開の動画への直リンク
AliveCorが市販しているデバイスと心電測定方法がよくわかる

AliveCorは以前より、血中カリウムの濃度を測定するためのセンシング技術を開発してきた。2018年には米国FDA(食品医薬品局)により、ブレークスルーデバイスとして指定もされている(注1)。
注1) FDAブレークスルーデバイスとは、米国FDAが医療機器としての正式な認可を与える前に、有望と考えられるデバイスに対して、医療機器の認可(例えばClassⅡなど)の取得に向けたアドバイスを行うための仕組み。

なぜ血中カリウム濃度の測定が必要なのか。一般に、高カリウム血症と低カリウム血症と、血中カリウム濃度により種類が分かれる。こうした血中カリウム濃度が必要以上に高い・低いことがあると、手足のしびれや筋肉・神経症状、不整脈などが起きる可能性がある1)。今回のプレスリリースによると、慢性腎臓病を患う約3,000万人の米国成人の場合、カリウムが上昇すると、1日の死亡の可能性は3〜13倍高くなるという。

これまで、カリウムレベルを測定するための標準的な方法は血液検査であり、侵襲的で不便であり、かつ常時測定できるものではなかった。そこでAliveCorはリモートで使いやすいカリウムモニタリングの技術を開発してきた。この技術はAliveCorが開発したECGセンサーで心電を測定し、学習されたディープニューラルネットワークで解析を行いカリウムレベルを特定するものとなっている。このアルゴリズムは、150万件を超えるECGを使用してメイヨークリニックと共同でトレーニングされ、約62,000件のECGで検証されたもの。なお、この研究は2019年4月にJAMACardiologyに掲載されている。

アストラゼネカにおけるCVRM

アストラゼネカは、自社の主要事業領域を、オンコロジー(腫瘍学)領域、New CVRM領域、呼吸器・免疫領域の3領域に分けており、今回の提携はこの主要事業の1つであるNew CVRMに関わるもの。

AliveCorの関連記事はこちら:

(今回参考のプレスリリースはこちら


ー 技術アナリストの目 -
カリウムモニタリングはまだFDAの認可が出ていないため、あくまで研究領域ということになると思いますが、すでにブレークスルーデバイスの指定も受けており、非侵襲測定対象として、とてもユニークなものだと考えています。そしてFDA認可前からアストラゼネカのような製薬企業がそこに目をつけて、コラボレ―ションを行い、共にユースケースを開発するというのも興味深いオープンイノベーションの動きです。

参考文献:

1) 栄養素から見た腎臓 〜腎由来のさまざまな血液中の成分の異常, [監修]東京女子医科大学 第四内科学 血液浄化療法科 教授 土谷 健先生