2021年2月10日、イスラエルのベンチャー企業であるCardiacSenseは、開発している医療グレードスマートウォッチが、心房細動(A-Fib)と心拍変動(HRV)の連続的モニタリングでCEマークを取得したと発表した。

24時間連続的に心房細動を検出可能

CardiacSenseは2009年にイスラエルで設立されたベンチャー企業。手首装着型の医療グレードスマートウォッチを開発している。このデバイスは、心房細動や心停止などの心不整脈を長期間継続的に監視するために独自に設計開発されており、バイタルサインを24時間年中無休で監視できる。

特に、心拍数を医療機器グレードで測定することができる点が特徴となっており、AIによるデータ解析により、「連続的に心房細動(A-Fib)を検出できる」ことがユニークな点となっている。

参考)心房細動(A-Fib)とは、不整脈の一種であり、心臓内にある心房に異常な電気信号がたくさん起こり、細かく震えるような動きをすること。心房細動はそれ自体で、いきなり命の危険を引き起こすわけではないが、動機や息切れなどを引き起こしたり、心不全になる可能性がある。

Apple WatchやSamsung Galaxy Watch3、この2-3年で一気に出てきたスマートウォッチタイプの心電モニタリングによる不整脈検出は、連続的に測定することはできない。測定時に静止して数十秒の間、時計を着けていない方の腕の指を電極に当てておくという動作が必要になり、スポット的なモニタリングとなっている。もちろん、この現在のスマートウォッチでの心電センシングの方式は、制約はあるものの当然意味はある。一方で、ホルター心電計の様に、24時間常時モニタリングをするというのはさらにウェアラブルデバイスの付加価値を上げるものとなる。

なお、このデバイスはフル充電の状態で連続4日間使用することができ、充電時間は2時間となっている。

PPGによるセンシング

CardiacSenseが使っているのはPPG(フォトプレチスモグラフィー)という方式で、ウェアラブルデバイスによる生体センシングにおいては、従来からある方式である。発光部のLEDから光を照射し、血流の変化によって変わる光の吸収量から、心拍数などの生体データをセンシングするものである。

今年のCES2021においても、PPGを使ったセンサチップにより、血圧での米国FDAの医療機器認可を狙う、Valencelの発表などについても特集した。

将来はより高度な不整脈分析も狙う

このスマートウォッチは現時点では不整脈の一種である心房細動(A-Fib)のみの検出が可能であるが、同社によると将来的には頻脈、徐脈、心室性期外収縮(PVC)、心房期外収縮(PAC)、QT延長、一時停止、心停止などの追加の不整脈状態を継続的に検出できることを狙っているという。

また、取得可能な生体情報も今後追加される予定である。想定されているのは、呼吸数、深部体温、SpO2(酸素飽和度)、血圧となっている。

参考)深部体温というのも非常にユニークなポイントになっており、同社は詳細について明かしていないが、ウェアラブルデバイスによる表面温度と体内の生体パラメーターから、深部体温を予測するようなものではないかと想像される。なお、ウェアラブルデバイスによって測定される皮膚温度、周囲の温度と湿度、および活動強度としての心拍数をリアルタイムで監視し、深部体温を推測するような研究も存在している1

(今回参考のプレスリリースはこちら


2021年に注目すべき、デジタルヘルスの健康・ヘルスケアモニタリングや解析技術の動向について整理した。技術の全体像について知りたい人はこちら。

参考:(特集)2021年デジタルヘルスの技術動向 ~健康・ヘルスケアモニタリング / 解析~


ー 技術アナリストの目 -
当メディアでも何度もこのPPG(フォトプレチスモグラフィー)技術を使ったウェアラブルデバイスを取り上げていますが、近年はセンサーだけでなく解析アルゴリズム側の発展もあり、PPGを使った高度な生体センシングデバイスが出てこようとしています。今回のCardiacSenseがPPGで臨床グレードの心拍数検出の精度が出たというのもそうした大きなトレンドの一環と言えます。まだFDAの認可は出ていないため、本格的に革新的であると証明されるのはこれからですが、まずはCEマークを取得したということで、この連続的な心房細動検知が一歩進んだことになります。

参考文献:

1) Estimating core body temperature based on human thermal model using wearable sensors, Takashi Hamatani, Akira Uchiyama, etl., SAC ’15: Proceedings of the 30th Annual ACM Symposium on Applied Computing(April 2015)