2021年3月3日、オランダの独立系研究機関であるTNOが、同機関がこれまで取り組んできた3D全固体電池の研究を元に、LIONVOLTというスピンオフベンチャーを設立したと発表した。

LIONVOLTの全固体電池

急成長するウェアラブルや埋め込みデバイス、電気自動車など様々なアプリケーションにおいて、より長い電池容量、短い充電時間、低コストが求められている。現在、様々な企業が全固体電池の開発に取り組んでおり、小型サイズのものは日本においてもTDKや村田製作所が早くも量産化を始めている。TNOにおいても過去5年間、プロトタイプの研究開発を行ってきており、LIONVOLTはこの研究がベースとなり設立されている。

通常、全固体電池は様々なメリットがある反面、電解質が固体となることから、液体電解質に比べて界面抵抗が大きくなり、リチウムイオンの移動が妨げられてしまう。結果として出力を上げづらく、高速での充放電が難しいといった課題がある。

LIONVOLTは数十億本の電極の柱を機能性材料の薄膜層で覆うことで、従来に比べて非常に大きな表面積と、正極・負極の電極間距離が非常に短い3D構造を作成することによってこの課題を解決しようとしている。電極間の距離が短ければ、リチウムイオンは短い距離を移動するだけで済む。LIONVOLTの全固体電池は「3D」全固体電池と表現されており、こうした設計上の工夫から来ている。

なお、TNOの特許1)からは、固体電解質にはポリマーを含むイオン伝導性マトリックス(複合材を形成するための母材)に、セラミック材料を複合した有機無機ハイブリッド材料を使っていることが伺える。これにより、ポリマーとセラミック双方の課題を軽減することを狙っているようだ。

TNOは今回の発表で、2020年12月にLionVoltの3D固体薄膜電池のPoCが実証され、大規模な3D電池の製造が可能であることが示されたことに触れている。LIONVOLTは開発を進めるためのシードステージの資金調達の最終段階にある。今後数年間で、LIONVOLTが、市場に出せる状態の3D全固体電池に発展させるために開発を行っていく。

独立研究機関TNOとは

TNOは1932年に設立された応用科学の研究機構で、オランダ及び欧州における政策テーマや社会課題と連動して研究を行う。研究はおおよそ4年間が1タームとなっており、4年ごとの研究計画を立案し、同HPでは合計67人の主任研究者が在籍していることがわかる(少し古いが2014年のデータだと、TNOに在籍の従業員全体では約3,000人)。なお、研究は企業や政府機関と協業して実施する。

現在の研究は2018年~2021年までの研究戦略を元に、以下5つの領域に注力しているようだ。

  • 産業向け     :強く、競争力のある国際的なビジネスコミュニティ
  • 健康的な生活   :健康で生産的な人口
  • 防衛&セキュリティ:不透明な世界情勢における決定的アクション
  • エネルギー    :低炭素エネルギーシステムのより速い進展に向けて
  • 都市化      :動的な都市・地域の革新のため

(今回参考のニュースリリースはこちら


ニッケルリッチ正極やシリコン負極、リチウム金属などの先進リチウムイオン電池に関する技術動向の全体像についてはこちらの記事も参考。

参考:(特集)車載向け次世代電池の技術開発動向① ~先進リチウムイオン電池~


電池にとって重要となる、Power Dayで発表されたフォルクスワーゲンの電池ロードマップ発表の内容についても整理したのでご参考。

参考:Volkswagenが2030年までの電池ロードマップを公開、さらにEVを強化へ


ー 技術アナリストの目 -
全固体電池はやや報道が過熱気味ですが、短期的に実用化するのは小型の電池で、ウェアラブルデバイスや産業用機器(ロボットなど)が想定されています。LIONVOLTもそうした小型用途での実用化を数年後に目指すというものであり、まだ実用化には距離があり、あくまでシードステージであるという点は強調したいところです。

参考文献:

1) WO2020130822 HYBRID SOLID STATE ELECTROLYTE