2021年3月4日、遠隔診療用のIoTデバイス・システムを開発している米国ベンチャー企業のTytoCareがシリーズDを拡張し、追加で50m$を調達し、シリーズD合計で100m$(約108億円)の資金調達額になると発表した。

遠隔診療IoTデバイスのTytoCare

TytoCareが展開しているのは、遠隔診療に特化したIoTデバイスキットとテレヘルスのためのシステムだ。小型で手で持てるサイズのこのデバイスを使い、ユーザーは自宅から医者と繋がり、自宅で診療を受けることができるようになる。今後成長すると期待されている遠隔診療において、重要なツールとなっている。

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デバイスの利用の様子がよくわかる

米国FDAの認定を取得し、医療機器として扱われているこのデバイスキットは、心臓・肺の音を取得したり、備え付けのカメラで耳の中の様子や喉の状態を撮影したり動画を医師に送ることができる。また、心拍数の測定や画像から皮膚の状態を評価するなど、1つのデバイスキットで診断に必要な基本的な測定を行うことができるものだ。

2020年で収益は2.5倍に成長

グローバルの調査会社の推計によると、遠隔医療市場は、2020年の264億ドル(2.8兆円)から2026年までに7,019億ドル(約76兆円)に達すると推定されており、予測期間中に17.7%のCAGRで成長すると予測されている。これは驚異的な成長スピードだ。

こうした世界全体での遠隔医療の採用が進む中、COVID-19によるパンデミックも接触の少ない遠隔診療の普及にはプラス要因として働いているようだ。TytoCareはこうした追い風を受けて成長が加速している。2020年だけでも、TytoCareの収益は2.5倍に増加したという。

同社はシリーズDを昨年4月に実施し、すでに50m$(約54億円)を調達していた。今回、こうした世界的な事業拡大を背景とし、さらに追加の50m$を調達し、シリーズD合計で100m$(約108億円)となった。これまでに調達した資金の総額は155m$(約168億円)にもなるという。

今回、調達した資金は、遠隔医療および遠隔検査プラットフォームを米国、ヨーロッパ、アジア全体に展開すること、そして、AIや機械学習ベースの家庭診断ソリューション、その他の特許技術など、新しい高度な製品機能を開発・導入していく。

現在までに、TytoCareは世界中の150以上の主要な医療機関および保険会社と提携しており、現在6,000人以上の臨床医が遠隔医療ソリューションを使用している。2020年だけでも、同社は世界中で65万件を超える遠隔医療検査を実施したという。

(今回参考のプレスリリースはこちら


ー 技術アナリストの目 -
遠隔診療の市場が世界的に成長しています。そうした中で、TytoCareのような遠隔診療用ツールやデバイス・システムも追い風を受けているようです。筆者は3-4年前に海外の展示会でTytoCareのブースを訪問したことがありますが(確か当時シリーズB後くらいのステージでした)、当時から非常に洗練されたデバイスとユーザー体験のデザインは際立っていました。さて、このベンチャーのポイントは、あまり技術主導ではなく、ユーザー体験の完成度が高いことだと考えています。AI活用の様な高度な技術から入るのではなく、遠隔診療における課題に既存の技術をインテグレートし、完成度の高いシステムに仕立てたところが成長のポイントだと考えています。デジタルヘルスにおいても、しっかりと顧客のペインに着目して、事業を成長させている良い事例ですね。