台湾の全固体電池ベンチャーであるProLogium Technologyと、ベトナム最大の民間企業Vingroupの子会社である自動車OEMのVinfastが、電気自動車向けの全固体電池の商品化を加速するためのJVを設立すると2021年3月3日に発表した。

全固体電池「リチウムセラミックバッテリー」を開発

ProLogium Technologyは台湾の桃園に拠点を構えるベンチャー企業。2006年に設立され、現在400名もの従業員を抱えている。2012年に曲げることができるフレキシブルリチウムセラミックバッテリー(FLCB)を開発し、その後も開発を続け、2020年5月にはシリーズDで100m$もの資金を調達している。

同社の詳細についてはこちらも参考。

参考記事:リチウムセラミックバッテリーを開発する台湾ベンチャーProLogium Technology

ベトナム自動車OEMへの搭載狙い

今回、ProLogiumがJVで合意をしたのはベトナム発の世界で戦う国産自動車OEMの地位を築こうとしているVinfastだ。このVinfastはベトナムのコングロマリット企業グループVingroupによってわずか4年前に設立された企業である。

なお、このVingroupはベトナムでTOP10に入る大企業グループで、グループ全体で75,800人もの従業員を抱えるコングロマリットとなっている。新興国のコングロマリットに多い形だが、事業は不動産、リゾート、小売、病院、学校・大学、農業、VC、科学技術研究、スマートデバイス、自動車・二輪車と多岐に渡る。

現在、Vinfastはベトナムの自動車市場シェアで5位にランクされており、2021年1月にはAIアルゴリズムを搭載した、3つの新しい自動運転電気SUVモデル(VF31、VF32、VF33)を発表している。同社が狙うのは、いわばベトナムのテスラだ。この最新のSUVモデルは2〜3の自動運転レベルを持ち、ドライバー支援、車線制御、衝突の警告と軽減、駐車支援等の様々なインテリジェント機能を備えている。VF31のバッテリ容量は42kWhで走行距離は300km(注1)、最高グレード車種のVF33は最大106kWのバッテリー容量で、最大550kmn走行距離だという(注1)。

注1) 航続距離算定の前提とする基準は不明(EPA, WLTC, NEDC)

こうしたVinfastが注力する自動運転電気自動車に対して、ProLogiumの全固体電池を適用することを狙う。

2023~24年の時間軸を狙う

今回締結するMOUを元に、ProLogiumとVinfastはEV用の自動車用全固体電池(SSB)パックを製造するためのJVを設立する。このJVは、ProLogiumの全固体電池製品を優先的に購入することができ、またProLogiumの特許取得済み電池パックアセンブリテクノロジーであるMAB(Multi-Axis Bipolar+:多軸バイポーラ+)を使用して、全固体電池のパックをベトナムで製造するライセンスを取得する。PLGは全固体電池のカソード、固体電解質、アノード層で構成される半製品セルをこのJVのために製造し、JVが半製品セルの状態から完成品にして出荷を行うという分担だ。

今回の発表によると、PLGが生産するこの全固体電池の半製品セルは2022年に1〜2 GWhの容量に達すると予想されるとのことで、VinfastのEVに2023年~2024年に搭載する予定であるという。

(今回参考のプレスリリースはこちら


ニッケルリッチ正極やシリコン負極、リチウム金属などの先進リチウムイオン電池に関する技術動向の全体像についてはこちらの記事も参考。

参考:(特集)車載向け次世代電池の技術開発動向① ~先進リチウムイオン電池~


電池にとって重要となる、Power Dayで発表されたフォルクスワーゲンの電池ロードマップ発表の内容についても整理したのでご参考。

参考:Volkswagenが2030年までの電池ロードマップを公開、さらにEVを強化へ


ー 技術アナリストの目 -
台湾発ベトナム経由で全固体電池がEVに搭載されるかもしれないという発表です。全固体電池はトヨタが2020年代前半に発売する自動車に全固体電池を搭載すると発表しており、フォルクスワーゲンが出資するQuantumScapeも2024年の実用化を狙っています。今回発表された、ProLogiumの全固体電池のEV向け量産も2023~24年となっており、ほぼ先行企業と同様の時間軸であるようです。一方で、現時点ではVinfastのどのような車種で、どのようなスペックを想定して全固体電池を搭載するのか、まだ具体的な情報は何も発表されていないため、本当に実用化できるのか、という点も含めて実際JVで量産開発を進めた時にどうなるかは未知な部分が多いです。ProLogiumは以前に中国の新興EVメーカーのNIOと提携を発表しましたが、NIO DAYで発表されたET7では別のサプライヤの半固体電池が搭載されると言われており、結局、まだ車載での実用化は難しかったのかと感じ取れる発表でした。本当に実用化できるのか現時点ではわかりませんが、引き続き注視していきたいと思います。