中国の自動運転ベンチャーであるMomentaは、3月19日にシリーズCの資金調達ラウンドを実施したことを発表した。今回のラウンドでは、合計5億ドル(約543億円)の資金を調達しており、リードインベスターはトヨタとボッシュ、シンガポールの政府系投資ファンドのテマセク、云锋ファンドとなっており、他にはメルセデスベンツ、GGV纪源キャピタル、Shunweiキャピタル、テンセント、凯辉キャピタル等が参画している。

自動運転ベンチャーMomentaとは?

2016年創業の自動運転ユニコーンベンチャー

Momentaは2016年創業の中国自動運転ベンチャーである。中国の北京、蘇州、およびドイツのシュツットガルトに拠点を構えて自動運転技術を開発している。創業からわずか5年足らずであるが、今回のラウンドの資金も合わせると、同社はすでに703m$(約764億円)もの資金を調達したことになる。中国におけるユニコーンベンチャーの1社である。MITテクノロジーレビューでも「世界で最もスマートな企業50」に選定されており、世界で注目されている。

開発を加速する「フライホイール戦略」

同社は自動運転の開発を加速するための戦略を「フライホイール」と呼んでいる。このフライホイール戦略は、大量の自動運転走行データを集めるとともに、並行してアルゴリズムの改善を行い、その改善されたアルゴリズムで更に自動運転システムを展開していくという閉ループのPDCAのことを指している。

この大量の自動運転走行データを集めために、同社は、部分的な自動運転走行を実現する自動運転Mpilotと、無人の自動運転MSDという2つのシステムを右脚・左脚と表現し、同時に開発に取り組む戦略を取っている。

Mpilotは高速道路、駐車シナリオ、都市道路における自動運転を実現する自動運転ソフトウェアとなっており、これは短期的にレベル3までの自動運転を実現する。Mpilotは先に量産化され、市場で実際に利用されながらデータを収集する。Mpilotは現在、複数のグローバルおよび中国国内のトップ自動車会社やTier 1サプライヤーと戦略的協力関係にあり、エンドユーザー向けに2021年から2023年までの世界的な量産を実現する。

そして無人自動運転を実現するMSDを搭載したMomentaGO(ロボタクシー)は2020年にリリースされており、2022年には安全のための補完ドライバーのいない形で、一部の車両の試運転を行う予定だ。

同社公開の動画への直リンク
MSDシステムを搭載した自動運転の走行の様子がわかる

ディープラーニングと高精細マップに強み

同社の自動運転センサシステムは、全方向に取り付けられた12個のカメラをベースに、1基の360度をスキャンするLiDAR、12個の超音波センサ、フロントとコーナーに取り付けられた5基のレーダーから構成されている。読み取ったセンサデータをディープラーニングで処理し、車両を制御する。

同社の特徴の1つとして、ディープラーニングに強みがあることが挙げられる。ILSVRCという大量の画像データをアルゴリズムで処理し、画像認識を行う世界的なコンテストで、Momentaは2017年の大会でその精度で1位となっている。(なお、ILSVRCは画像認識の精度向上が飽和したことから、2017年で役目を終えたと判断され、終了した)

そして、その画像認識に強いディープラーニングを活用したコンピュータービジョンにより、高精度地図を独自に構築していることも特徴となっている。2020年3月に高精細マップ(HDマップ)でトヨタ自動車と提携。SLAM(Simultaneous Localization and Mapping:自己位置推定とマッピングを同時に行うこと)などの最先端技術を使用し、10cmレベルの相対精度でHDマップを自動的に生成する。HDマップには信号機や標識、ポール、道路標示などのタグ付与もされている。

2024年までに自動運転システムの大量生産を実現

同社は、2024年までに自動運転システムの大量生産を行うことも明らかにした。2024年までのタイミングにおいて、MSDを搭載した無人自動運転のビジネスモデルの0→1を検証し、並行してMpilotは大量生産へ移行。これにより更に大量のデータが集まり、無人自動運転の大規模な展開へとつなげる。

(今回参考のプレスリリースはこちら


自動運転ベンチャーの最新動向がわかるカリフォルニア州の走行距離レポートをまとめているためこちらもご参考。

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ー 技術アナリストの目 -
以前からトヨタがHDマップで提携していましたが、今回リードインベスターとしてMomentaに出資をすることになりました。トヨタはPony.aiにも出資をしており、自動運転システムの開発においては内製ではなく、外部活用・オープンイノベーションのスタンスを取っていることが伺えます。TRIではシステム評価ができるように自社でも研究開発を行いノウハウを溜め、複数の外部パートナーとの提携を行い、市場が形成されるタイミングで一気に展開するということになるのでしょうか。また、Momentaに以前から出資をしているShunweiキャピタルの動きも注目です。Shunweiは今回のラウンドにも出資者として名を連ねていますが、中国スマホ大手のXiaomiのCEOが運営するVCで、XiaomiはShunweiキャピタルを通して自動車業界への参入を狙っているとも言われています。