オーストラリアのLiDARベンチャーであるBaraja(バラハ)は、3月24日、新しい資金調達ラウンドのシリーズBで4,000万豪ドル(約33.1億円)を調達したことを発表した。この資金調達ラウンドは、Blackbird Venturesが主導し、複数のファンドと日立建機が出資者として参画している。

プリズムと光の相互作用を利用したLiDARを開発するBaraja

Barajaは2016年にオーストラリアのシドニーで設立されたLiDARベンチャー企業で、設立からしばらくはステルスで開発を進めていた。2019年にシリーズAで32m$の資金を調達。セコイアチャイナやオーストラリアの政府系R&D機関のCSIROのインキュベーションファンドなどから出資を受けてオフィスを拡大。現在はシドニー、サンフランシスコ、上海にオフィスを構えており、従業員数は100名を超える。

Barajaが開発を進めているLiDARは、プリズムと光の波長特性を利用した光制御によりスキャンを行う方式となっており、同社はこれをSpectrum-Scan™と呼んでいる。

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光ファイバーケーブルを発光部とし、波長調整可能なレーザー(同社はこれをエンジンと表現している)を、プリズム状の光学部品(センサーヘッド)に接続する。照射されたレーザーはプリズム状の部品によって、さまざまな方向へ偏向され、外部環境に光を照射する。また、レーザーの波長を動的に変化することで、光が送られる方向を制御することができる。なお、この波長帯は1550nmの近赤外光となっている。

従来のLiDARは回転させるための可動部品が必要であったり、MEMSにおいても可動部が極小ではあるが、依然として可動部品は残ることになる。同社のプリズム偏向による光制御は、可動部品が完全に不要となっており、熱・衝撃・振動に対して長期的信頼性が高いものとなる。

同社のLiDARは反射率10%で200m超の長距離検出が可能となっている。

日立建機は鉱業、建設、産業用車両での展開で協業

日立建機は社外の技術やサービスを用いて新しい価値を創り出すオープンイノベーションを進めており、今回の出資はその一環となる。Barajaへの今回の出資を通して、鉱業、建設・産業用車両での展開をサポートするという。

Baraja CEOのFederico Collarte氏はこう語る。
「従来のLiDAR技術は、認識する範囲、解像度など、パフォーマンスの低さが課題になっていました。私たちのLiDAR製品「スペクトラムスキャン™」は、建設・鉱山機械メーカーの日立建機などのパートナーが実際の現場で実証した信頼性を提供します。今回の出資と、日立建機との継続的なパートナーシップにより、鉱山現場に適した、より高度な自律運転の早期実現に向けて、私たちのミッションを推進していきます。」

日立建機の執行役常務兼CTO、研究・開発本部長兼顧客ソリューション本部長はこう述べている。
「バラハ社のLiDAR製品「スペクトラムスキャン™」 は、ますます高い安全と生産効率を求める鉱山のお客さまに、高度な自動運転のソリューションを提供するための必須のデバイスです。このたび、この分野で最先端の技術を持つバラハ社と連携することができたのはこの上ない喜びです。単なる出資関係にとどまらず、地形の計測や障害物の検知など双方の技術力向上と製品化加速につながると期待しています。日立建機は今回の出資を通して、AHSの高度化、超大型油圧ショベルの遠隔・自律運転の実用化を加速させるとともに、土木建設分野にも応用を拡大していきます。また、今回のようなデジタル分野のオープンイノベーションの取り組みも合わせて強化していきます。」

(今回参考のプレスリリースはこちら


MEMS LiDARやFMCW LiDAR、フェーズドアレイなど、方式別の技術動向や特徴について知りたい方はこちらも参考。

参考記事:(特集) 車載LiDARの技術動向 ~種類・方式の特徴と全体像~


ー 技術アナリストの目 -
昨年のCES2020でもお披露目をしていたBarajaが、シリーズBへ到達することになりました。日立建機から出資を受けることになった背景として、同社の可動部品が無い方式が衝撃や振動への耐性が強く、鉱山などの厳しい環境下でも安定して活用できるということで技術がマッチしたようです。自動車の領域ではSPACなどで巨額の資金調達が相次いでいますが、こうした建機・産業用車両などの、よりセグメントを絞った領域で、自社の技術特性が活かせる市場で戦う形も今後増えてきそうです。

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