3月24日、臨床・遺伝子データライブラリを構築するベンチャー企業のTempusは、開発中のECG(心電)分析プラットフォームが、米国FDAのブレークスルーデバイスの指定を受けたことを発表した。このECG分析プラットフォームは米国の大手病院グループのGeisinger(ガイシンガー)と共同で開発されたもの。

TempusのECG分析プラットフォーム

ECG解析ではAIの活用が進む

ECG(心電)は近年、AIによるデータ解析技術の研究開発が進む分野だ。心電データは心房細動などの兆候が含まれており、従来は専門医や技師が心電図を見て、診断を行っていたが、近年はAIによる解析の実用化が進んでいる。

欧米では数多くの心電解析スタートアップが誕生しているが、日本でも最近、株式会社カルディオインテリジェンスが1億4千万円のプレシリーズAを実施するなどの動きがある。

臨床・遺伝子データのTempusとは?

創業5年で1,000億ドル以上の資金を集める医療データベンチャー

Tempusは2015年に設立された米国のベンチャー企業。世界最大の臨床および分子データのライブラリを構築しており、患者・医師・研究者がその情報にアクセスして役立つようにするためのオペレーティングシステムを開発している。

これまでに調達した資金総額は、11億ドル(1,205億円)1)となっており、わずか創業から5年で巨額の資金を調達している。米国全土の50以上の国立がん研究所や数百の地域の病院と提携している。

画像クレジット:Tempus

12か月以内に心房細動を発症するかどうかを予測可能

今回発表された心電解析のポイントであるが、12か月以内に心房細動(AFib)を発症するかどうかを予測可能、という点であり、すでに心房細動が見られるECGデータではなく、「発症を予測するモデル」ということが特徴であり、最先端となっている。

この分析プラットフォームは、心房細動または心房粗動を発症するリスクが高い患者を特定するシーンで、臨床医を支援する目的で開発されている。具体的には、一般的に使用される臨床的脳卒中リスク評価ツールに基づいて脳卒中のリスクが高い40歳以上の患者に使用することが想定されている。プラットフォームは、ディープニューラルネットワークを使い、43万人の12誘導ECGから取得されたECGデータ群160万件で学習されたもの。

脳卒中の主な原因である心房細動は、認識も治療もされていないことがよくある。現在、心不整脈の既知の病歴のないような無症候性の患者を、医師が特定するのに利用可能なデバイスは無いという。

なお、あくまで12誘導ECGが対象であり、ウェアラブルでは使えない点は注意である。

同社は今回の発表で、この分析プラットフォームを使うことで、心房細動の既往症が無いが、心房細動起因による脳卒中を患ってしまう人の2/3は事前に検知できるとしている。

FDAブレークスルーデバイスとは

今回の発表にあったFDAブレークスルーデバイスとは、2016年からスタートした新しいスキームで、この指定を受けることで医療機器認定を取れたわけではない点は注意だ。FDAのDe vonoや510kといった医療機器認定を取る手前で、有望なデバイスやアルゴリズムを対象に、FDA認定を取るためにFDAがサポートを行う、というものとなっている。

詳細はこちらで解説をしているので参考。

参考:【特集】デジタルヘルスケア領域のベンチマークとして重要な米国FDAについての解説

(今回参考のプレスリリースはこちら


2021年に注目すべき、デジタルヘルスの健康・ヘルスケアモニタリングや解析技術の動向について整理した。技術の全体像について知りたい人はこちら。

参考:(特集)2021年デジタルヘルスの技術動向 ~健康・ヘルスケアモニタリング / 解析~


ー 技術アナリストの目 -
心電解析のアルゴリズムは、心房細動を始めとして命に関わり得る重要な病気の兆候を検知することができる可能性があるため、非常に有望視されています。上記の記事でも触れましたが、欧米では多くの資金がこうしたデータ解析AIベンチャーに集まっています。Tempusもそうした有望ベンチャーの中の1社で、巨額資金を集めていることを上記で触れました。日本とは動いている資金の桁が違い、大規模な研究開発が進んでおり、今後も欧米から新しいアルゴリズムが発表されていくことが期待されます。今回のアルゴリズムはまだFDAのブレークスルーデバイスの指定を受けただけなので、実際にFDAの認定を取るにはまだ時間がかかりそうですが、FDAも有望視をしているということだと思いますので、面白い動きです。

参考文献:

1) Crunchbaseより