3月30日、英国を代表する次世代電池の研究コンソーシアムのFARADAY INSTITUTIONは、①バッテリー寿命の延長、②バッテリーモデリング、③リサイクルと再利用、④全固体電池、⑤バッテリーの安全性という5つの主要な研究課題に注力するために、2,260万ポンド(約34.5億円)の研究資金のコミットメントを発表した。

組織の商業化チームと戦略を強化し、英国に商業的影響を与える可能性が最も高いバッテリー分野の研究を強化する。

投資大臣のGerry Grimstoneは、次のように述べている。「FARADAY INSTITUTEのエネルギー貯蔵に関する重要な研究は、特に道路や空での低排出輸送に移行する際に、ネットゼロのコミットメントを達成するために極めて重要です。英国の科学研究部門を強化し、パンデミックから、より環境に配慮したものを確実に取り戻すための取り組みの一環として、彼らの貴重な仕事を引き続き支援できることを嬉しく思います。」

電池コンソーシアムFARADAY INSTITUTION

FARADAY INSTITUTIONは、電気化学エネルギー貯蔵研究、スキル開発、市場分析、および初期段階の商業化のための英国の独立研究機関である。2017年9月に設立されたこの機関は、21の英国の大学と450人を超える研究者を含む、50を超える企業のコンソーシアムによって運営されている。

重点研究対象の5分野

今回のコミットメントでは、以下の5分野が重点研究対象として編成されている。そしてこれらの研究対象は、2022年3月以降に更新されるFARADAY INSTITUTEの資金に基づいて、2023年3月まで実施される予定だ。

(1) バッテリー寿命の延長に関する研究

外部刺激(温度やサイクル速度など)と、劣化につながるバッテリー内部で発生する物理的および化学的プロセスとの関係についての包括的なメカニズムの理解を深める研究。リチウムイオン電池の健康状態と残りの耐用年数を予測するモデルへ応用することを想定。

リーダー:
ケンブリッジ大学のClare Grey(クレアグレイ)教授

他の参加大学:
バーミンガム大学、リバプール大学、オックスフォード大学、シェフィールド大学、サザンプトン大学、ワーウィック大学、インペリアルカレッジロンドン大学、UCL大学の研究者

(2) バッテリーモデリングに関する研究

バッテリーの性能と寿命は、電気自動車(EV)、飛行機、さらには電力網に電力を供給するのに十分な大きさのパックにセルを組み合わせる、その方法によって異なる。この研究テーマでは、劣化診断ツールを開発し、寿命を予測するために、結合された劣化メカニズムを含む、新しい、より完全なバッテリー物理学を検証する。取り組むべき最初の課題には、バッテリーの急速充電、低温動作、およびバッテリーパック内のセルの熱管理が含まれる。

リーダー:
インペリアルカレッジロンドンのGregory Offer(グレゴリーオファー)博士

他の参加大学:
バース大学、バーミンガム大学、ランカスター大学、オックスフォード大学、ポーツマス大学、サウサンプトン大学、ワーウィック大学、UCL大学の研究者

(3) リサイクルと再利用に関する研究(ReLiB)

この研究テーマは、英国の企業に競争上の優位性を提供するリサイクルルート・技術を開発することを目的としている。プロジェクトでは、さまざまな物理的、化学的、生物学的手法を使用して、現在使用されているすべての電池組成に含まれる材料を分離および回収する。

リーダー:
バーミンガム大学のPaul Anderson(ポール・アンダーソン)博士

他の参加大学:
エジンバラ大学、レスター大学、ニューカッスル大学、UCL大学の研究者

(4) 全固体電池に関する研究

この研究では、全固体電池の構築が直面する基本的な課題を理解し、問題の解決策となる技術を開発する。新しい材料や新しい製造アプローチが含まれる可能性があるが、これらに限定はしていない。特に、以下の様な指標を実現することを狙う。

  • 従来のリチウムイオン電池と比べ、少なくとも50%多いエネルギーを蓄積できること。
  • ネイルペネトレーションテスト(内部短絡をシミュレートするために行われる一種の安全テスト)の対象であり、100°Cを超える温度で操作された状況でも不燃性であること。
  • 30分未満での完全な充電を実現できること。
  • 80%の容量保持(サイクル寿命)で500回の充放電サイクルが可能であること。

リーダー:
オックスフォード大学のPeter Bruce教授

他の参加大学:
リバプール大学、シェフィールド大学、ワーウィック大学、UCL大学の研究者

(5) バッテリーの安全性に関する研究

このプロジェクトでは、セルにおける障害の根本原因と、その障害伝播のメカニズムの基本的な理解を向上させる。研究は、数百回の充電サイクルにわたる材料の劣化から、特徴的な1秒未満のイベントを伴う障害の原因形成、障害の伝播に及ぶ。

リーダー:
UCLのPaul Shearing(ポール・シェアリング)教授

他の参加大学:
ケンブリッジ大学、ニューカッスル大学、シェフィールド大学、ワーウィック大学、インペリアルカレッジロンドン大学、UCL大学の研究者

(今回参考のプレスリリースはこちら


ー 技術アナリストの目 -
先般、オランダの独立研究機関TNOが全固体電池のベンチャーをスピンオフした件を記事にして取り上げましたが、今度は英国の独立研究機関が、研究のための集中投資を行うことを発表しました。ちなみに日本においてはNEDOの先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)が2020~2022年までの3年間で22億円、JSTのALCA-SPRINGが4つの研究チームに対して、年間10億円程度の研究資金を投じているため、今回のFARADAY INSTITUTIONの34.5億円というのは、必ずしも突出しているわけではありません。