補助金に支えられた中国EV市場の成長

中国のEV市場は2010年代に急成長を遂げてきた。

2013年には新エネルギー車(主にEV+PHEV)の販売台数はわずか約2万台だったのに対し、政府の積極的な補助金を背景として、2018年には126万台へと成長した。しかしその後、2019年半ばから中国政府はこれまでの政策を変え、補助金を削減してイノベーションによる普及に方針を転換した。結果として2019年は伸び悩んだことから、中国政府は2022年までの補助金延長を決めた。そして、2020年の結果は137万台となり、過去最高を達成している。

中国のBEV(EV+PHEV+FCV)販売台数推移

CAAM 2020年汽车工业经济运行情况より筆者作成
台数にはFCVも含まれるがほぼEV+PHEVとなっている

2021年は180万台にも到達するとCAAM(中国の自動車業界団体)は予測しており、いよいよEV市場が成長期に入ったように見えるが、補助金によって支えられている部分は大きく、補助金が切れる2022年以降持続的な成長が可能かどうかは議論が分かれるところだ。なお、この補助金であるが、2020年から2022年まで10%~30%と段階的に削減されることになり1)、原則として、年間補助金の上限は約200万台となっている。

中国の補助金は通常、300,000人民元(46,000ドル)未満の価格の車両にのみ適用されることになっている。ただし、中国政府は車電分離を柱の1つとして掲げており、バッテリー交換技術が適用されている車両には例外がある。

絶好調の中国EVベンチャー勢

そうした中で、上海蔚来汽車(NIO)や理想汽車(Li Auto)、威馬汽車(WM Motor)、広州小鵬汽車科技(Xpeng)のような新興EVメーカーは、足元でその販売台数を大きく伸ばしている。今回はこの主要ベンチャー4社の販売台数を見てみよう。

まず、2020年の各社の販売台数を見ると、各社ともに年間2万台を超え、Li Autoは3万台ちょう、NIOは4万台超に到達している。2019年からは大きく成長しており、特に伸び率が大きいのはNIOとLi Autoとなっている。(Li Autoは2019年12月からクロスオーバーSUVを販売しており、2020年が初の通年販売となる)

中国有力EVベンチャーの年間販売台数

CHIBAMOBIL.RU、及び各社発表より筆者作成

直近足元の販売台数について各社の発表が始まっているため、これら中国新興EVベンチャーの販売台数を見てみよう。

中国有力EVメーカーの1~3月販売台数

CHIBAMOBIL.RU、及び各社発表より筆者作成

さて、総数で見ると各社ともにまだ数千台ではあるが、各社の発表によるとその成長率はすさまじい。NIOは前年比423%、Xpengは前年比487%、Li Autoは前年比334%となっており、有力ベンチャーは軒並み昨年1~3月比で3~4倍の成長となっている。(なお、WM Motorは3月の販売台数がまだ不明なため、表記が0となっている。WM Motorから発表があり次第、グラフを更新する予定。)

また、改めて各社が販売している車種について下記に整理をしている。XpengとNIOは中国の有望EVベンチャーとして語られることが多いが、価格帯はかなり異なっており、Xpengはより大衆車指向、NIOは現時点ではプレミアムセグメントがターゲットとなっている。

中国有望EVベンチャーの車種とスペック概要

CHIBAMOBIL.RU、各社発表、EqualOceanより筆者作成

※1 Li Autoの800kmはガソリンエンジンも併用したレンジエクステンダーでの最大距離であり、純バッテリーでの走行距離は180km
注1) 各社ともに様々なオプションがあり、価格帯は上記だけではない点は注意
注2) XpengのP7における自動運転レベルは、Level3と公表しているが、やや定義が曖昧な点は注意(表では一旦、同社の公表通りレベル3と記載)

自動運転の面では、中国ベンチャーにおいてはLiDARを使わないことが特徴となっている。できるだけ価格を抑えて、実用面で問題無い機能として、現在はカメラとレーダーが中心となっている。

しかし、例えばNIOは次世代の自動運転センシングユニットであるAQUILAで、同社が出資を行っているInnovusionと共同開発を行ったLiDARを搭載する予定であり、次世代車種のET7ではLiDARが搭載される。やはり現在のADASを超えて、今後OTAも含めて自動運転機能をアップデートしていくためには、LiDARは必要だという判断をしたのだと考えられる。

Li Autoは2020年第4四半期(2020年10月~12月)に、総売上高が41億5000万元(約690億円)となり、初めて四半期黒字を達成したという。Li Autoは現在、転換社債で7億5,000万ドルの資金調達を行うことを発表しており、電気自動車の電池や関連技術に投資をすることを表明している。また、NIOも現在もそうであるが、自動運転および電池関連に積極投資をする方針だ。


ー 技術アナリストの目 -
2021年1月~3月の結果は、中国EVベンチャーの勢いを表す結果となりました。前年比3~4倍で成長しており、今後電池や自動運転技術などに積極投資してくると想定されます。補助金が切れる2022年以降のタイミングで揺り戻しが起こる可能性はありますが、2022年までで、どこまで市場でポジションを形成できるかが重要になりそうです。

参考文献:

1) 新エネルギー車の普及と応用のための財政補助政策の改善に関する通知(2020)

2) Li Auto: Short Cut or Detour? — Initiate with Buy [2/2]

3) 2020年汽车工业经济运行情况, CAAM – 中汽协会行业信息部