米国のグローバルコングロマリット企業のGEが、物体表面に付着しているウイルスを検知する半導体金属酸化物ガスセンサを開発したことを、4月8日に発表した。研究開発の成果はNature Electronics2020、Labon a Chip2021に掲載された。

今回の研究開発は、NIH(米国国立衛生研究所)から24か月の助成金を受けて、物体表面のCOVID-19粒子を検出するために、モバイルデバイスに組み込むことができる小型センサーを開発するものとなっている。

GEが開発中の金属酸化物半導体ガスセンサ

GE Researchでは以前から、高感度の金属酸化物半導体を使ったガスセンサを開発している。

従来のガスセンサは工業用や住宅用のガス漏れの検出から、環境汚染物質や危険な工業地域、室内空気の監視などのアプリケーションに用いられている。近年、半導体技術の進展と機械学習アルゴリズムの適用などの技術発展から、ガスセンサは小型化、高感度化が模索されており、また匂いのような多様な化学物質に反応するようなセンサデバイスも登場している。しかし、先端的なユースケースでは、依然として不安定なガスの感度や、非線形応答などが課題となっており、GEは独自にその課題を解決しようとしている。

今回GEが発表したのは、米国の1セント硬貨よりも小さい、小型ガスセンサチップだ。通常、金属酸化物半導体ガスセンサでは、ガス物質が金属酸化物膜と酸化還元反応する際の抵抗値の変化を読み取っている。しかしGEのアプローチは、抵抗値ではなく、誘電励起に基づきインピーダンスを測定・分析することで、高度な分析機器に匹敵する小型ガスセンサチップを実現できるとしている。

(補足)なお、このインピーダンス変化に着目した金属酸化物半導体ガスセンサの研究開発は他にも例がある。芝浦工大の研究1)ではくし形電極構造にして抵抗値とインピーダンス変化の両方を有効利用できる可能性を示唆していたり、高麗大学校の研究2)でも、誘電励起を使った線形応答のガスセンサが研究されている。ただしこうしたアプローチは多くは無いように見える。

このセンサデバイスを使って、物体表面上の微量レベルのCOVID-19ウイルス粒子を直接検出することができる可能性があるという。このセンシング技術は、スマートフォンやスマートウォッチなどのモバイル・ウェアラブルデバイスや、指紋スキャナー、コンピューターキーボード、壁掛けセンサーなど、幅広いアプリケーションに統合できる可能性がある。

GE Researchの主任研究者で、NIHプロジェクトの主任研究員であるRadislav Potyrailo氏は、次のように述べている。「NIHとのプロジェクトを通じて、COVID-19ウイルスの存在を検出できる、モバイルデバイスに埋め込むのに十分小さいセンサーを開発しています。」

(今回参考のプレスリリースは参考1, 参考2


CES2021で展示されたガスセンサや匂いセンサなどの空気の質をセンシングする技術のまとめはこちらも参考。

参考:【CES2021】近年盛り上がりを見せる空気質センサデバイス


ー 技術アナリストの目 -
CES2021でも出展が複数あった空気センサですが、GEから発表があったので取り上げてみました。2020年5月には論文で発表された内容ですが、改めてGEからCOVID-19の検知の可能性があるということで、プレスリリースが出ており、GEとしては露出を増やしてアプリケーションの可能性を探りたい、というところでしょうか。五感の中でも嗅覚のセンサーは、今後、ヘルスケアや自動車、スマートシティ、スマートホームなどの領域で応用が期待されるところであり、注目されています。ただし、「匂い」のような先端用途では実用化も簡単ではないようで、息長く技術開発動向を見ていく必要があります。

参考文献:

1) インピーダンス変化型半導体ガスセンサに関する研究, 齋藤敦史・武笠智昭・村木雄大・野村 徹, 芝浦工業大学工学部通信工学科, 表面科学 Vol. 27, No. 1, pp. 7―12, 2006

2) Linear gas sensing with dielectric excitation, Lee Jong-Heun(Department of Materials Science and Engineering, Korea University, Seoul, Republic of Korea), Nature Electronics


【世界のガス・匂いセンサベンチャーや大学研究機関の技術動向を調査したい方】

金属酸化物半導体やカンチレバー方式、化学センサアレイなど、最先端のガス・匂いセンサのベンチャーや大学研究機関の技術について調査したい方はこちら。

グローバル技術動向調査:詳細へ