中国広州の自律飛行eVTOLメーカーのEHangは、4月16日、2020年の業績報告と、今後の戦略について発表を行った。(尚、財務結果については未監査のものなので、監査後に修正される可能性ある点は注意)

現在の売上はおおよそ30億円

今回明らかにされた2020年の総収入は、1億8,010万人民元(2,760万米ドル)で、日本円にするとおおよそ30億円となった。売上高は2019年から47.8%増加したことになる。

また、同社の中核事業であるエアモビリティソリューションからの売上高は、1億600万人民元(1,620万米ドル:17.6億円)であり、昨年から23.3%増加した。もう1つの事業である航空メディアソリューションの売上高は65.7百万人民元(10.1百万米ドル:10.9億円)であり、2019年から113.5%増加した。

また、乗用AAVの年間販売台数は、2019年の61台に対し、2020年には70台となった。2021年は、EHang 216を年間で約250台生産することを目指している。

アジアを中心にテストフライトを実施した2020年

同社は2020年に中国・韓国などのアジアを中心に都市部で無人飛行のテストフライトを実施した。

参考:2人乗りの無人自律飛行機体を開発するEHangが韓国3か所でのテストフライトを実施

韓国では最初の乗用車用AAVのSACであるEH216の耐空証明(SAC)を取得し、SACを使用して、韓国の3都市であるソウル、大邱、済州島で自律試験飛行を完了。

中国の広東-香港-マカオグレーターベイエリアにある珠海市を取り巻く最大の島である横琴新エリア(横琴)では、ローカルパートナーと提携して、空中移動の試験運用を共同で実施。今年2月にも北京で初となる無人飛行試験も無事に完了させた。

参考:中国の自律飛行eVTOLを開発するEHangが北京での無人飛行試験を完了

同社が今回発表したところによると、同社の無人自律飛行eVTOLのEHang 216は、2020年末までに約10,000の自律試験飛行(旅客輸送飛行を含む)を安全に完了させた。

中国南部での飛行試験の様子

中長距離用機体の発表 VTシリーズ

今回初めて明らかにされたのが、同社のEHang216に続く新しい中長距離用の機体VTシリーズだ。このVTシリーズは2年前に計画が策定され、その後表で発表されることなく、内部で開発されてきた。

VTシリーズはその機体の大きさによってVT10、VT20、VT30と3種類に分けられる。VTシリーズは、純電気式マルチローターと固定翼の両方から構成されるハイブリッドデザインとなっている。

(補足)EHangの機体は従来マルチロータータイプであった。この方式は、プロペラが回転する際に生み出す揚力で浮上し、複数のプロペラの回転数をコントールすることで姿勢制御を行う。一方、航続距離を延ばすのであれば飛行効率は悪いためあまり適さない。VTシリーズは中長距離用として開発されるにあたって、マルチコプタータイプの欠点を補うために、固定翼とのハイブリッドとされたと考えられる。また、同社は今回の発表の中でハイブリッド設計では、すべての飛行モードで完全な冗長性を確保することができるというのも利点として触れている。

同社は、近い将来に中国北西部の空き地でVT30の試験飛行を行う予定であることも明らかにした。具体的な機体の形状やデザイン、関連する技術的なパワーメーターなどを公開する予定だという。

機体販売から運用プラットフォームモデルへと段階的に移行

同社はまた、現在は機体販売がメインのビジネスモデルとなっているが、段階的に中核の事業モデルを運用プラットフォームモデルへと移行することを、戦略として発表。同社がこれまで構築してきた、クラスター管理のノウハウ・技術を活用し、AAVの製造と運用をシームレスに統合する。

(補足)このクラスター管理については詳細が説明されていないが、AAVの設計・製造だけではなく、ルートプランニングや4G、5G通信など、実運用に向けたシステム全体のソリューションノウハウ、及び機体やオペレーション管理のことだと推察される。また、同社は「UAMプラットフォーム事業者」として位置づけられ、この運用システム全体を提供し、システム導入費や利用料で売上を上げるモデルへ展開することを意味していると想定される。

100エアモビリティルートイニシアティブの立ち上げ

さらに将来的には、UAMプラットフォームオペレーター戦略の一環として、中国で「100エアモビリティルートイニシアティブ(100 Air Mobility Routes Initiative)」を開始する予定であることにも触れた。

このイニシアチブがどのような内容なのかは現時点では不明であるが、最初は中国の広東-香港-マカオグレーターベイエリアに焦点を当てて、今後24か月で実施される予定であるという。

(今回参考のプレスリリースはこちら


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ー 技術アナリストの目 -
今回、第四四半期及び2020年の業績報告に合わせて、いくつかの新情報の発表がありました。一番大きな発表は、新機体VTシリーズの発表でしょうか。同社のマルチローターAAVであるEHang216は、飛行距離が35kmと短距離セグメントとなっているため、基本的には人口密集地域での都市内移動や観光目的の需要を取り込むことが意識されています。一方、短距離では取り込めないエリア間移動や空港-都市間の移動などの需要を狙い、中・長距離用の機体を開発することになったのだと考えられます。また、同社のビジネスモデルについても興味深く、機体売りというよりは、機体を含めた運用オペレーションのためのシステム全体提供、という指向が改めて戦略として示されました。

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