グローバル建材大手のサンゴバン(Saint-Goban)とイスラエルの電池ベンチャー企業のAddionicsが、大容量の全固体電池の開発に向けて提携をしたことを、4月20日に発表した。

BIRDエネルギープログラムで共同R&Dプロジェクトが採択

サンゴバンとAddionicsはBIRDエネルギープログラムで共同R&Dテーマが採択されている。このBIRDエネルギープログラムとは、米国とイスラエルの国家間でのR&D支援の枠組みとなっており、BIRDとは、Israel-US Binational Industrial Research and Developmentを指している。

なお、この二国間プログラムにおいては、以下で詳細を記事化している。

参考:米国とイスラエルのエネルギー省が共同で全固体電池を含む8つの次世代エネルギープロジェクトへ投資

このBIRDの枠組みの中で、両社による高出力・大容量の全固体電池を開発するプロジェクトが採択されており、今回のプレスリリースにも繋がる取り組みとなっていた。

今回の発表では、改めて両社がEV向けの次世代電池において、航続距離の拡大、高速充電、安全性の確保と低コスト化に向けて開発を行うことが触れられている。

サンゴバンは独自の固体電解質を開発中

両社の役割であるが、サンゴバンは同社が開発している固体電解質を用いて、生産フローを簡素化し、中間プロセスを排除して、より安全な電池と低コストの製造を可能にする。

今回の発表では、サンゴバンの電解質は、最先端の固体電解質に匹敵する高いリチウムイオン伝導性を示しているという。(詳細は不明)

(補足)サンゴバンは米国エネルギー省(DOE)のアルゴンヌ国立研究所が主導する6つの革新的な電池製造プロジェクトの1つで、「ハロゲン化物型固体電解質」の開発プロジェクトが採択され、開発が進行している1)。そのため、今回の発表でもハロゲン化物型の固体電解質を前提としていると想定されるが、プレスリリースではハロゲン化物かどうかは明言していないため、その前提で読んでいただきたい。

サンゴバンが研究開発で固体電解質に使用しているハロゲン化物とは、ハロゲンとそれより電気陰性度が低い元素との化合物のことであり、ハロゲン族元素にはふっ素・塩素・臭素・よう素・アスタチンがある。現在すでに実用化しているものとして、ヨウ化リチウムが挙げられる。イオン伝導率1×10-7S/cmを示すことから、あまりイオン伝導率は高くないが、高い安全性から心臓ペースメーカー用電池に使われている。

一方で、近年ではハロゲン化物固体電解質でも比較的高いイオン伝導率のものが見つかっており、例えば米国のブルックリン国立研究所でもKwak HiramらがLi2ZrCl6を一部Feで置換した、Li2.25Zr0.75Fe0.25Cl6の組成で最大1mS/cmのイオン伝導率が出ることが報告されている2)。また、例えば近年パナソニックからも、高いリチウムイオン伝導性を有する固体電解質材料として、ハロゲン化物固体電解質の特許が出願されている3)

また、トヨタと東工大が2016年に発表したLi9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3も硫化物系のLGPSをベースに高価なゲルマニウムの代わりにシリコンを使い、また微量のハロゲン元素である塩素を加えることで、室温でのイオン伝導率が1×25mS/cmとなることがわかっている。

Saint-Gobain Ceramicのビジネス・テクノロジー戦略担当副社長のDr. Mark Hampden-Smith氏はこう述べている。
「当社独自の固体電解質技術により、低コストの製造の可能性を秘めた次世代バッテリーの安全性と性能が向上すると確信しています。この共同プロジェクトは、サンゴバンの「MAKING THE WORLD A BETTER HOME」という目的と一致しています。」

Addionicsは集電体の3D化技術を保有

さて、一方のイスラエルベンチャーのAddionicsであるが、「スマート3D電極技術」を保有している。

HP上だとどのような技術かわかりづらいが、同社の特許4)からわかるのは、集電体である金属を多孔質構造にして、集電体と活物質の接触面積を増やすことができるようになる。接触面積が増加することで、電解質内のイオン伝導率を上げることができ、電極を薄くして、出力密度を上げることができる。またこうした3D電極の構造は、内部の熱放散も効率的になり、温度分布が電極全体に均一になるという。それによって、劣化を加速する「ホットスポット」の形成を最小限に抑えるという効果にも繋がるようだ。

同社の技術は従来の活物質を活用するため、電池の材料構成自体は変える必要が無く、すでに実績のある既知の材料を採用し、バッテリーのパフォーマンスを向上させることができる。従来は液系の電池の技術であったが、全固体電池で一般的に見られる界面抵抗の問題の解決にも役立つという。

AddionicsのCEOであるDr.Moshiel Biton氏は、次のように述べている。
「このテクノロジーにより、コストを節約し、高性能を実現し、廃棄物を減らすことができます。私たちは車から始めますが、それを超えていきます。私たちのテクノロジーは、より良い環境と、より持続可能な未来の創造をサポートできます。」

このように、今回の提携はサンゴバンが開発している独自の固体電解質技術と、Addionicsが開発している3D電極形成技術を組み合わせて、界面抵抗を低減した大容量の全固体電池を開発するものとなっている。

今回参考のプレスリリースはこちら


ニッケルリッチ正極やシリコン負極、リチウム金属などの先進リチウムイオン電池に関する技術動向の全体像を知りたい方はこちら。

参考:(特集)車載向け次世代電池の技術開発動向① ~先進リチウムイオン電池~


ー 技術アナリストの目 -
昨年12月のBIRDプロジェクトの発表に引き続き、約4か月後に両社からのプレスリリースが出ました。やや時間が空いていますが、両社の共同開発の体制が整ったということでしょうか。よくあるパターンとして、このように共同研究開発の発表の後で、プロジェクトの進捗に応じて大手企業がパートナーのベンチャー企業へ出資をする、という形が挙げられますが、マイルストンをクリアしたらサンゴバンとAddionicsもそのような形になるかもしれません。

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参考文献:

1) DOE awards funding to six Argonne battery manufacturing projects, Argonne National Laboratory

2) New Cost-Effective Halide Solid Electrolytes for All-Solid-State Batteries: Mechanochemically Prepared Fe3+-Substituted Li2ZrCl6, Advanced Energy Materials; Journal ID: ISSN 1614-6832, Kwak Hiram; Han Daseul; Lyoo Jeyne; et.al, https://doi.org/10.1002/aenm.202003190

3) WO2020070956 – HALIDE SOLID ELECTROLYTE MATERIAL AND BATTERY USING THIS

4) WO2020240553 – ELECTROCHEMICALLY PRODUCED THREE-DIMENSIONAL STRUCTURES FOR BATTERY ELECTRODES