Ascentiraはウェアラブルデバイスの中でも独特なポジショニングで際立っている。通常、ウェアラブルデバイスでは心拍や呼吸、最近では血圧やSpO2などのパラメーターの測定が模索されており、FitbitやApple Watchはこうした流れで技術を追求している。

一方のAscentiraは、概日周期(サーカディアンリズム)という人間の体内リズムを測定するという非常に独特なウェアラブルデバイスを開発している。コンセプトは「Your Own Personalized Schedule:あなた自身のパーソナライズされたスケジュール」だ。

サーカディアンリズム・体内時計を活用するとは?

ちなみにサーカディアンリズムと体内時計という2つの似た言葉があり、それぞれの意味を定義しておくと、以下のようになっている。

体内時計(たいないどけい)

生物は地球の自転による24時間周期の昼夜変化に同調して、ほぼ1日の周期で体内環境を積極的に変化させる機能を持っています。人間においても体温やホルモン分泌などからだの基本的な機能は約24時間のリズムを示すことがわかっています。

この約24時間周期のリズムは概日リズム(サーカディアンリズム)と呼ばれます。概日リズムは、光や温度変化のない条件で安静を保った状態においても認められることから、生物は体内に時計機構をもっていることが明らかとなり、これを体内時計(生物時計)と呼んでいます。

引用:厚生労働省 e-ヘルスネット

そのため、人間が持つ約24時間周期のリズムのことをサーカディアンリズム、そして体内に持つ時計機構のことを体内時計と呼んでおり、厳密には2つの言葉は区別されている。

さて、この生物が持つ体内時計は様々な外的・内的要因によってズレることがわかっている。最も典型的な例が時差ボケであるが、このズレが長く続くと、眠気や頭痛・倦怠感・食欲不振などの身体的な不調や、睡眠・覚醒に関する障害に繋がる可能性がある。

また、サーカディアンリズムに基づいて自分の生活の予定を立てることで、最高のパフォーマンスを得ることができる。こうした、パーソナライズされたサーカディアンリズムに基づいてスケジュールを立てることで、個人の生活を改善することを狙うのがAscentiraだ。

PPGとグラフェンナノセンサを使ったウェアラブル

Ascentiraのウェアラブルデバイスは、PPG(フォトプレチスモグラム)センサーとGFET(グラフェン電界効果トランジスタ)ナノセンサーの2つのセンサーで構成されている。

PPGは様々な企業がウェアラブルで活用している光学センサーを使った方式であり、通常、皮膚に光を照射し、光吸収の状態や光透過の状態をセンシングすることで生体データを測定する。このPPGにより、血圧と心拍数を測定することで、間接的に運動の効果やアドレナリンなどのホルモンの放出状態についてモニタリングができるという。

そしてGFET(グラフェン電界効果トランジスタ)は従来のシリコン電界効果トランジスタを改良したものだ。GFETではシリコンをグラフェンに置き換えていて、より高感度にバイオマーカーを検出できることが特徴となっている。このGFETは汗を経由して、成分として含まれるサイトカイン、ドーパミン、汗中ブドウ糖、コルチゾールなどの生体バイオマーカーを検出する。

そして、主にコルチゾールの状態をモニタリングすることで、サーカディアンリズムを把握することができるという。このリズムに基づいた1日のスケジュールを立てることで、最も生産的である時間を決定することができる。

パーソナライズされた生活スケジュールを作るAI

同社はパーソナライズ化するための解析に機械学習AIを活用する。現時点では大量のデータが必要であるようで、パーソナライズされたモデルを形成するのに、ウェアラブルデバイスでのデータ収集フェーズを挟む必要があるが、この時間はなんと約1年半かかるという。

この長いキャリブレーション期間を経て、パーソナライズされたモデルを元にスケジュールが立てられていく。

また、週末に人々が記入するアンケートがあり、現在のスケジュールがどの程度うまくいっているのかについて主観で情報をインプットする。たとえば、自分がどのようにストレスを感じているか、毎日のスケジュールについてどのように考えているか、自分の幸福度や、プログラムに従うのがどれほど難しいかなどについて、1〜10のスケールで答えていく。このアンケートデータに基づいて、構築されたモデルが修正されていく、という形になっているようだ。

この技術は現在、標準機能のアプリとプレミアム機能のアプリが開発され、アプリを通して実験が実施されているようだ。

標準アプリでは、心拍数、コルチゾール、ブドウ糖、血圧、ドーパミンなど、体内のさまざまなバイオマーカーを測定が可能となっており、これらのバイオマーカーの測定を通して、活動、睡眠、ストレス、栄養に関する一般的な分析を行う。そしてプレミアム版のアプリでは、特定の睡眠や活動を反映したパーソナライズされた分析を行う。また、コルチゾールレベル、血糖値、心拍数、睡眠、ドーパミンを結び付けて、概日周期との同期を決定し、改善する方法を提供することができるという。

 

同社HPはこちら


2021年に注目すべき、デジタルヘルスの健康・ヘルスケアモニタリングや解析技術の動向について整理した。技術の全体像について知りたい人はこちら。

参考:(特集)2021年デジタルヘルスの技術動向 ~健康・ヘルスケアモニタリング / 解析~


ー 技術アナリストの目 -
データ収集期間が1年半と非常に長いため、現時点では実用性に欠けるのですが、発想はとても興味深い技術です。いわゆる世の中一般のPPGウェアラブルと汗センサを組み合わせたものとなっており、多様なパラメーターが測定でき、概日リズムまで踏み込んでおり、ポテンシャルとしてはこれまでのウェアラブルに無かった健康モニタリングの可能性があります。一方で汗センサ単独でも実用化がかなり難しく、同社のセンサーの実用性がどのレベルなのかが現時点ではわかりません。センサーの精度が低い場合は、あくまで大まかなセンサー値の変動傾向を見て、概日リズムとつなげていくという限定的な使い方しかできないでしょう。

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