スイスのローザンヌに拠点を構えるベンチャー企業のBiospectalは、同社が開発したスマートフォンのカメラで血圧を測定する技術「Biospectal OptiBP™」の2つの実証研究が進行していることを発表した。

カメラを使った臨床グレード非カフ血圧測定

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カメラで心拍や呼吸などの生体センシングを行う技術は光学センサーの一種として様々なベンチャー企業が開発を行っている。単純な1分間の平均心拍数や呼吸数はすでに実用化されており、行動解析なども含めた機能により、高齢者の在宅モニタリングなどの用途で実用化が模索されている。

一方で、上記の平均心拍数や呼吸数の測定と比較して、血圧を光学カメラで測定することは非常に難易度が高く、実用化はできていない。そうした難易度が高い領域に挑んでいるのがBiospectalだ。

Biospectalの開発した技術は、スマートフォンのカメラを使って指先から血圧を推計する技術である。よくあるウェアラブルデバイスでは、スマートウォッチに光学センサが組み込まれており、PPG(フォトプレチスモグラフィー)によって、手首から光電脈波を測定することで血圧を推計する。しかしこの方法は光電脈波の検出レベルが低いことから、毛細血管が集まる指先に注目して血圧センサーを開発している企業や研究機関も多く、Biospectalもこうしたアプローチを採用している。

実際にユーザーが使うときには、アプリを起動し、静止した状態でカメラを指に一定時間かざすことで血圧の測定を行う。24時間連続で測定する、といった連続的なモニタリングは難しいが、同社は臨床グレードで血圧をモニタリングすることができ、技術としては先進的なものとなっている。

新興国で進行する2つの実証実験

同社は今回の発表で、複数の国で2つの実証実験が進んでいることを明らかにした。

1つ目は、ビル&メリンダゲイツ財団の資金提供を受けて、最初の独立した研究が南アフリカ、タンザニア、バングラデシュの3か国で進行中となっている。これは、定期的な血圧測定とモニタリング、および妊娠中の高血圧障害に焦点を当てたものとなっている。

2つ目は、インドネシアでの実証研究であり、インドネシアの最新技術を使った医療サービス財団のSummit Institute for Development (SID)と、ローカル健康・医療支援団体のOna Kenya Limitedと共同で実施している。こちらのプログラムもアメリカ合衆国国際開発庁(USAID)やビル&メリンダゲイツ財団からの支援や、グランドチャレンジカナダ(Grand Challenges Canada’s Saving Lives at Birth)、その他複数の機関によって資金供与を受けて実施している。この研究は、慢性高血圧や妊娠中の高血圧障害に焦点を当てている。

これら2つの研究の結果は、2022年前半頃に明らかになるという。

Biospectal CEO兼共同創業者のEliott Jones氏はこう述べている。
「スマートフォンは世界一のデバイスであり、タンザニアやインドネシアの人々が、他のどの消費者向けデバイスよりもスマートフォンを持っている可能性が高いです。Biospectalの純粋なソフトウェアとアプリのアプローチは、スマートフォンの世界的な利用可能性により、血圧測定とモニタリングへのアクセスを同時に民主化します。」

 

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2021年に注目すべき、デジタルヘルスの健康・ヘルスケアモニタリングや解析技術の動向について整理した。技術の全体像について知りたい人はこちら。

参考:(特集)2021年デジタルヘルスの技術動向 ~健康・ヘルスケアモニタリング / 解析~


ー 技術アナリストの目 -
同社には数年前に最初のプロトタイプが出てきた時から注目しておりますが、この1~2年でようやく技術の臨床研究の結果などが発表されるようになってきており、その結果をもとにこうした実証実験も拡大してきました。カフと同様に、血圧測定の際には静止していないといけないため、カフに対する優位性というのは、血圧測定器を持っている人にはあまり感じられないでしょう。一方でスマホカメラで血圧を測定できるという側面に焦点をあてると、カフの血圧測定器が浸透していない新興国で、ユーザーが安価に血圧を測れるようになる、という新規性があり、そうした背景から新興国で実験を行っているものと思われます。カメラ×血圧は、これまでになかったアプリケーションの拡がりが期待されるため、そうした新規用途の観点で注目していきます。

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