ドイツのボンに拠点を置くベンチャー企業であるHigh Performance Battery Technology GmbHが、新しい固体電池の開発で重要なマイルストンを達成したことを5月31日に発表した。今回のマイルストン達成を受けて、2023年に最初の200MWhの生産ライン稼働を目指す。
注)なお、親会社はHigh Performance Battery AGで、スイスにある企業である

コバルトフリーの固体電池を開発

同社は2015年に設立され、固体電池の開発を進めてきた。技術の出自はCEOのGünther Hambitzer教授であり、同氏はヴィッテン・ヘルデッケ大学で電池の研究を行い、その後フラウンホーファーでも研究チームを率いていた長年の電池分野の蓄積を持つ。Fortu Holding AGという電池ベンチャーも設立して開発をしていたが、こちらの企業は途中で廃業となり、HPBで二回目の挑戦となる。

同社が開発したのはコバルトフリーの固体電池である。特徴は、イオン伝導体となる固体電解質を部材としてセルに挿入するのではなく、化学反応によってセル内部で形成されるプロセスを開発した点だ。同社はその様子を「Similar to “two-component glue”(二液混合接着剤に似ている)」と表現している。

同社の固体電池は、ほぼ一定の容量でパフォーマンスを損なうことなく、非常に長い耐用年数を実現できるとしている。この固体電池は深放電や急速充電に強く、固体イオン伝導体は不燃性であるため、安全に使用できる。

このバッテリーセルの性能は、初期テストで基本的な性能が示されていることも明らかにした。

(補足)なお、この同社の技術については現時点で開示されている情報は非常に少ない。念のため同社の特許をいくつか見てみると、この固体電解質はカチオン、二酸化硫黄(SO2)、そしてハロゲン、ホウ素を含むものであることがわかるが、あまり類似の文献が無く、現時点ではどのような特徴を持つのかがよくわからない。

HPBが開発している電池は、陸上、水上、空中等のeモビリティで使用される可能性が高く、特に、エネルギー供給・電力の中間貯蔵に適しているという。

同社はあくまで電池の生産ではなく、電池セルの開発に特化しており、パートナー企業にセルの生産ライセンスを付与するというビジネスモデルを取るつもりであるようだ。

 

同社HPはこちら


ー 技術アナリストの目 -
特許を複数見てみましたが、同社の電解質の特徴や、化学反応によってセル内部に形成されるというプロセスについては現時点ではまだ不透明な部分が多く、今後の情報公開を待つ必要がありそうです。ちなみに別の企業の特許では「SO2をベースとする無機電解質のイオン伝導率は高く、他の電気的データに関しても有益である一方で、高度に腐食性であるために、さらなる商業的適用性は制限される」ことも指摘されています。用途はエネルギー貯蔵用がメインになりそうですが、どのように実装されていくのか引き続き動向を注視していきたいと思います。

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参考文献:

1) EP3069399 – RECHARGEABLE ELECTROCHEMICAL LITHIUM CELL WITH SULPHUR-DIOXIDE CONTAINING ELECTROLYTES

2) WO2018115016 – RECHARGEABLE ELECTROCHEMICAL CELL COMPRISING A CERAMIC SEPARATOR LAYER AND AN INDICATOR ELECTRODE

3) WO2019170274 – SOLID IONIC CONDUCTOR FOR RECHARGEABLE ELECTROCHEMICAL BATTERY CELLS

4) JP2016511922A – 電気化学電池用の電解質およびその電解質を含有する電池セル