カナダのトロントと米国カリフォルニアを拠点とする自動運転ベンチャーであるWaabiは、6月8日にシリーズAで83.5m$(約91億円)の資金調達を実施したことを発表した。

有力VC・AIの著名人が出資

今回のラウンドはKhosla Venturesがリードインベスターとして主導し、Uberや自動運転ベンチャーのAurora Innovation、Radical Ventures、8VC、OMERS Ventures、BDC CapitalのWomen in Technology Venture Fund (WIT)が出資をしている。

さらに同社にはAIの著名人もこぞって出資をしている。ニューラルネットワークの研究で有名なGeoffrey Hinton氏(トロント大学とGoogleに籍がある)、スタンフォード大学教授でHuman-Centered AI Instituteの共同ディレクターFei-Fei Li氏、UCバークレーの教授で産業用ロボットベンチャーCovariantの共同創業者でもあるPieter Abbeelらなどが含まれる。

AIファーストの自動運転アプローチ

Waabiは2021年3月に立ち上がったばかりのスタートアップだ。創業者でCEOのRaquel Urtasun氏はトロント大学コンピュータサイエンスの教授でAIのパイオニアである。同氏は会社設立の1か月前までUber ATG(Uberの自動運転技術開発部門)のR&Dのトップでもあった。

Uber ATGは2020年12月に自動運転ベンチャーのAurora Innovationが買収することを発表していたが、こちらの記事によると、R&Dチームはこの買収には含まれていなかったようである。

参考:自動運転ベンチャーAuroraがUberの自動運転部門を買収

Waabiは自動運転車をエンジニアリングする従来のアプローチでは無く、AIファーストのアプローチを取っている。ディープラーニングや確率的推論、複雑な最適化アルゴリズムを活用し、エンドツーエンドで学習可能・解釈可能で、非常に複雑な推論が可能なアルゴリズムを開発しているという。同社が開発した革新的なクローズドループシミューレーターも活用することで、実環境でのテスト走行の必要性を大幅に削減している、というのが同社の主張だ。

最初はトラック分野から開始

同社の最初のターゲットは長距離トラック輸送分野だ。

トラック業界は、慢性的なドライバー不足と安全性の問題が根強く、自動運転技術が大きな影響を与えることができることが背景にある。

直近でも新型コロナウイルスで巣ごもり需要が拡大し、世界全体でコンテナ船が運んだモノの量は拡大する一方で、港湾・運輸の人手不足から、多くのコンテナ船が荷物を降ろしてもらうために列をなす状況であることが指摘されている。トラックドライバーの年収が大きく上がっているが、それでも人手は足りないという報道もある。

自動運転トラックの取り組みは、Plus.aiがニューヨーク証券取引所に上場することが明らかにされており、またTuSimpleもナスダックにIPO申請をしている。両社ともにおおよそ2024年前後で自動運転レベル4トラックが量産されるという計画であり、Plus.aiは2024年に出発地から目的地までの全自動運転を実現するというロードマップを掲げているが、実現できるかはやや不透明だ。現実的には特定ルートでの自律走行や、高速道路での自動運転など、制約条件下での自動運転が実現することが想定され、ドライバーの負担軽減に繋がる。

このように、比較的短期で実用化が期待されるトラックの自動運転分野で、Waabiはビジネスを構築していく見込みだ。

 

今回参考のプレスリリースはこちら


ー 技術アナリストの目 -
シリーズAで100億円弱の規模の資金を調達するというのはほとんど聞かない規模であり、同社への注目度を感じることができます。本質的にはドライバーレスにならないと人手不足は解消されないと考えられますが、現実的には当面はドライバーの負担軽減・安全向上の文脈が強くなりそうです。ドライバーレスではない場合に、どのような費用対効果が見込めるのか、自動運転トラックを開発する企業は問われていきそうです。

【自動運転AIの技術調査に興味がある方】

自動運転AIベンチャーや、自動運転トラックの世界のベンチャー企業動向調査に興味がある方はこちらも参考。

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