負極を従来のグラファイトから、シリコンドミナント材料で代替した先進リチウムイオン電池を開発しているベンチャー企業のEnevateが、2022年からの生産に向けた新しい生産ライセンス契約を、韓国の電池メーカーであるEnerTech Internationalと締結したことを発表した。

有力企業がこぞって出資する有望電池ベンチャー

Enevateは2005年に米国カリフォルニアで創業した電池ベンチャーだ。同社は様々な正極材料や固体電解質と互換性のある形で、負極にシリコンを使った次世代先進リチウムイオン電池を開発している。

注)直近製品化を目指して開発が進むのは電解液を使った液系のLIB

同社には複数の有力企業が出資をしている。複数のVCやファンドに加え、ルノー・日産・三菱(アライアンス・ベンチャーズ)、LG化学、サムスン・ベンチャー・インベストメント・コーポレーション、レノボら事業会社・CVCが出資をしている。

2021年2月にはシリーズEで81m$の資金を調達。これまでに調達した資金の総額は200億円を超える。

10年以上かけて開発を進めてきた同社の電池セル技術は、350件以上の特許(出願中含む)によって裏付けされている。

超高速充電と高エネルギー密度を実現

同社の電池は超高速充電と高エネルギー密度、そして寒冷地での低温動作が可能となっている。現在開発されているのは第四世代であり、以下のスペックとなっている。

  • 800Wh/L、340Wh/kgのエネルギー密度
  • わずか5分で75%まで充電可能
  • -20˚C以下の温度でのEVドライブサイクルテストや動作テストで、充放電サイクル1,000回を超えることが可能
  • NCA、NCM811、NCMA、低コバルト、またはその他の高度なカソード技術と組み合わせることができる互換性
  • 負極は10~60µmの厚さと1000~2000mAh/gで調整可能なシリコン主体の材料
  • 連続ロールツーロールによる製造プロセスであり、幅1m以上、長さ5km以上のシリコンアノードロールを使用し、毎分80m以上の電極生産が可能。電極生産ラインあたり10GWh以上のギガファクトリーでの運用を見据えて設計されている。

(補足)なお、負極は「シリコンドミナント」や「純シリコン」という表記が同社のリリースでもされているが、現在の第四世代のセルでは負極のシリコン含有率は70%以上という形であり、100%ではない。

早ければ2022年から商用生産開始

今回の生産契約は2022年からの商用生産開始に向けたものとなっているが、元々同社のロードマップ上は、2022~23年に商用生産開始で、この電池セルのアプリケーションはEV向けではない別の用途になると想定されている。EV向けに商用生産が開始するのは、2024~25年という計画だ。

現在開発が進んでいる量産前のバッテリーは、Enertechの既存のリチウムイオンバッテリー製造装置を使用して構築され、テストされている。今回の契約で、EnevateはEnerTechの市場拡大を加速し、生産能力を3倍にする技術を提供できるという。

 

同社HPはこちら


ー 技術アナリストの目 -
シリコン負極LIBの実用化に関するリリースも多くなってきました。同じくシリコン負極LIBを開発するEnovixも今年2月にSPACで上場することが明らかになり、Enovixも2022~23年で商用生産を開始し、まずは非自動車用途(ノートPCやモバイル、ウェアラブル等)で電池を展開する予定です。おおよそ時間軸としては同じですが、Enevateはより車載向けを意識して最初から開発が進められています。今回の生産契約により、2022年の量産開始に向けて準備が着実に進んでいることが伺えます。

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