シリコンバレーのLiDARベンチャー企業であるSense Photonicsが、最新の中・長距離フラッシュLiDARシステムを開発したと、6月14日に発表を行った。

2019年にステルスモードから表舞台へ

Sense Photonicsは2016年に設立されたベンチャー企業だ。

設立以来LiDARの開発を進めながら、2018年に14.4m$の資金調達を行い、2019年にはシリーズAで26m$を調達し、ステルスモードから脱却した。これまでに調達した資金の総額は48m$以上(一部の調達ラウンドでは金額非公開)であり、同社への出資者は複数のVCやSamsungやShellのCVCとなっている。

可動部不要の3DフラッシュLiDAR

Sense Photonicsが開発しているのは、可動部が不要のモーターレス3DフラッシュLiDARだ。

従来のメカニカル方式のLiDARではモーターが必要になり、摩耗の問題やコストが高くなるといった課題がある。MEMS方式でもマイクロミラーが可動部となるため、完全に可動部を排除することはできない。

3DフラッシュLiDARは、デジタル撮像のように2次元アレイ状のレーザーを拡散照射することによって3Dイメージを撮像するものとなっている。同社は単一の基板上に数万個のレーザーを収容する独自のVCSELレーザーアレイを配置。発光部であるVCSELは、独自のマイクロトランスファー印刷プロセスを使用して、多数の垂直共振器型面発光レーザーを印刷して構築している。VCSELの出力を拡散して視野全体を照らすことにより、目の安全性と信頼性が保証することができるという(なお、光源には940nmの波長を使っている)。

そして受光部では、単一光子レベルの詳細を検出できる独自のCMOS SPADシリコンレシーバーを組み合わせる。同社のCTOはHod Finklestein氏は汎用CMOSを使った単一光子アバランシェダイオード(SPAD)を発明しており、同技術で博士号を取得しているSPADの専門家であり、この分野への造詣が深い。100,000ピクセルを超えるヒストグラムを同時に処理するスマートイメージャーセンサーチップに統合されたCMOS単一光子アバランチダイオード(SPAD)となっている。

なお、このフラッシュ方式はOusterやLeddar Techも同方式での開発を進めており、詳細は以下を参照。

参考:(特集) 車載LiDARの技術動向 ~種類・方式の特徴と全体像~

開発したマルチレンジ機能

同社が今回開発したのはMultiRange™機能と表現されている。

これは、複数のセンサーヘッドを必要とせずに、道路プロファイル、道路の破片、長距離の車線マーキングを検出し、隣接する車線の交通を「同時に」検出することができる。最大検出距離は200m(反射率10%)であるが、今回開発した機能により、異なるFOVを持った50mレンジの物体検知と100mレンジの物体検知を行うことができる。

Sense PhotonicsのCTOのHod Finkelstein氏はこう述べている。「車両向けの包括的なLiDARソリューションは、車両前方50m以内で車線を変更する車を認識しながら、同時に最大200m前方の物体を検出できる必要があります」

この新しいマルチレンジ機能は、現在、主要な自動車OEMおよび自動運転車ソリューションプロバイダーによってテストされているという。

 

同社HPはこちら


ー 技術アナリストの目 -
今回の発表ではあまり明らかにされていませんが、フラッシュLiDARは面で光を広範囲に照射するために水平FOVを上げやすい一方で、検出距離は短くなりがちです。同社はVCSELとSPADで検出距離が低いことを克服しようとしていますが、Ousterが1,550nmの光源を使うのに対し、同社は940nmであり、出力を上げることによるアイセーフティの問題への懸念は残ります。実際に反射率10%で200mレンジの検知が可能なのか、今後の技術的な発表を待ちたいと思います。

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