Turntide Technologiesは高効率なレアアースフリーモーターを開発する米国サンフランシスコのベンチャー企業だ。同社は6月30日、225m$(約250億円)の資金調達ラウンドをConvertible Note(※1)で実施したことを明らかにした。

※1 Convertible Noteとは、将来の資金調達時に貸付金を株式へ転換する転換社債の一種。よくシード期で実施される形態となる。

今回のラウンドで出資をしたのは、カナダ年金計画投資ボード(CPP Investments)、 Monashee Investment Management LLC、JLL Spark、そして既存投資家のBreakthrough Energy Ventures、Captain Planet LP、Suvretta Capital Management LLCが含まれる。

今回の資金調達によって、Turntide Technologiesがこれまでに調達した累積の資金調達額は400m$(約440億円)に上る。

過去から取り組まれるレアアースフリーモーター

駆動力が求められるような高出力モーターには、強磁性などの特性を持つレアアース(希土類磁石)が使われる。

このネオジムやジスプロシウムといったレアアースであるが、資源の偏在性が高く、2010年に中国が日本に対して重希土類の輸出制限をかけたことで、その調達リスクが一気に顕在化したことから、様々な企業がレアアースの使用量削減や、レアアースフリーのモーターの開発に取り組んでいる。

とりわけEVやHEVなどの電動車両ではモーターは重要なコンポーネントであることから、トヨタやホンダ、日産などの自動車OEMや、自動車Tier1は、業界全体としてこのレアアースの使用量削減に常に取り組み続けている。

独自のモーターシステム設計により高効率を実現

Turntide Technologiesは、独自に設計された内蔵センサーとクラウドソフトウェアによる正確なモーター制御を実現するマネジメントシステムを開発。レアアースを使わないタイプのスイッチドリラクタンスモーター(SRモーター)と組み合わせ高効率なモーターを実現したようだ。その高効率さから、既存のモーターの置き換えにより3年で投資回収が可能であるとしている。

SRモーターは、永久磁石は使わずに鉄心とコイルだけで回転力を生み出す構造であり、材料コストを低減することができる。単純な構造であることから信頼性が高く、過酷な環境でも使えることも特徴だ。

一方で構造上、振動や騒音が大きいという問題1)があり、また明治大学理工学部の三木教授のインタビュー2)では、数年前にEV向けでSRモーターを適用する研究を行ったが、低速域の安定性が課題で一旦見送りとした、とある。

用途としては、初期ターゲットはHVAC(建物の空調システム)向けであり、すでに商用展開されている。そして、BMW i Venturesが投資をしている通り、電気自動車向けもターゲットとしており、2021年6月に、商用車や産業用車両、鉄道、船舶、航空宇宙などの商業輸送分野向けにビジネスを行うTurntide Transportという部門を立ち上げた。

今回調達した資金もこれらの商業輸送分野の事業展開に投資される見込みとなっている。

 

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ー 技術アナリストの目 -
以前からBMW i Venturesが出資をしていたTurntideが250億円もの追加資金調達を行い、いよいよ事業展開を加速するフェーズに入ってきました。レアアースフリーモーターを開発するベンチャー企業は決して数が多く無く、このステージにあるベンチャー企業はかなり珍しい部類に入ります。HVAC向けだけでなく、商業輸送を対象とした車両でもこれから実績を積んでいくフェーズになると思いますので、どのように発展していくのか、要注目です。

参考文献:

1) SRモーターの特徴と制御, 日経クロステック

2) 電気自動車の普及とともにモータも進化。SRモータ・PMモータの性能向上に関する研究――明治大学 アドバンスト機器制御研究室