Appleへ光学センサチップを提供している英国ベンチャーのRockley Photonicsが、深部体温や血圧、血糖値などの複数の生体センシングが可能なセンサモジュールを発表した。

シリコンフォトニクスによる光学センサチッププラットフォーム

Rockley Photonicsは、2013年に、シリコンフォトニクスのパイオニアであるAndrew Rickman博士によって設立された。

プラットフォームという言葉からわかるように、同社のシリコンフォトニクスによって大量生産を可能としながらも高性能な光学モジュールは、ヘルスケアやウェアラブルでの生体センシング用途、自動車用途などで期待されているFMCW(周波数変調方式)LiDARの小型化、データセンターサーバーの相互接続などを可能にする。

もうじきSPACの取引が完了、上場予定

同社は2021年3月にSPACによりニューヨーク証券取引所へ上場することを発表しており、SPACの取引は2021年の第2四半期に完了する見込みとなっている。

現時点で一連の取引が完了したという発表はされていないため、まだ手続き中であると考えられるが、元々発表のスケジュールでいくと、もうじきSPACの取引は完了すると想定される。SPACの詳細については以下を参考。

参考:ウェアラブル×健康を狙うシリコンフォトニクスのRockley PhotonicsがSPACで上場

発表された非侵襲複合光学センサモジュール

今回発表されたのは、非侵襲で生体センシングが可能な光学センサモジュールであり、このセンサモジュールは以下のバイタルサインを測定できるという。

  • 深部体温
  • 血圧
  • 体の水分状態
  • アルコール
  • 乳酸
  • グルコース

RockleyPhotonicsの最高経営責任者兼創設者のAndrew Rickman博士は、こう述べている。

「機械学習アルゴリズムと、アクセス可能なウェアラブルデバイスからのバイオマーカーの拡張的なセットに対する継続的な監視を組み合わせることで、デジタルヘルスケアを強化・変革するための新しい実用的な洞察が得られると確信しています。」

同社は、開発した光学チップを使った「clinic-on-the-wrist(手首のクリニック)」コンセプトを発表している。同社の主張によると、多くのウェアラブル家電デバイスでは緑色の可視光を使ったセンシングを行っているが、同社はIR(赤外線)を使っているため、広範囲のバイオマーカーを検出および監視できるという。

また、同社のセンサモジュールは、広い光学帯域をカバーする単一のシリコンチップから多数の個別のレーザー出力を生成することができる。発信される赤外光が皮膚の下を非侵襲的にプローブして、血液、間質液、および真皮のさまざまな層を分析して、対象の成分と物理現象を検出・分析する。

(補足)一般に、生体センシングを行う場合に、可視光はヘモグロビンによる吸収が大きく、中赤外光領域に行くと水による吸収が大きいため、特に近赤外は血中成分や人体を対象にしたセンシングを幅広く行うのに適している。Rockleyが赤外線の中でもどの波長帯を使っているのか、現時点では詳細は見つけられていない。

なお、今回発表されたバイタルサインの中でも、いわゆる「Holy Grail(聖杯)」と呼ばれるのがグルコースモニタリングだ。ただしこの領域は昔から無数の企業と大学が非侵襲での血糖値モニタリングにチャレンジしてきたが、まだどの技術も実用化に到達していない。SamsungやApple、そしてFitbitなどのウェアラブル企業は皆、狙っている領域であり、実験などは行っているが、実用化は簡単ではない。Rockleyにおいても簡単には実現しないと見るのが自然だろう。

参考:SamsungとAppleが次のモデルで非侵襲血糖値モニタリング機能を付けるという報道は本当か?

 

同社HPはこちら


ー 技術アナリストの目 -
Rockleyのシリコンフォトニクスによって生体センシングの領域がどこまで切り開かれるか、これは要注目ポイントです。現在、ウェアラブル業界ではセンシングできるパラメーターが徐々に医療寄りに近づいており、ようやくSpO2や血圧を測定できるものが出てきましたが、いわゆるPPGを使ったスマートウォッチの生体センシングではまだFDAの認可は得られておらず、CEマーク止まりです。特に血糖値のようなパラメーターはまだ実用化するのには長い時間がかかるでしょう。今回挙がっていたパラメーターの中で興味深いのは深部体温でしょう。体の表面に現れる抹消体温とは異なり、体の深部体温がわかると、睡眠状態や熱中症状態のモニタリング・予測、排卵日予測など、様々なアプリケーションに繋がる可能性があります。

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