リチウムイオン電池の負極材向けにシリコン・グラファイト複合材を開発している材料ベンチャー企業であるSicona Battery Technologiesが、プレシリーズAの資金調達を実施したことを発表した。資金調達額は370万豪ドル(約3億円)となる。

今回の資金調達ラウンドでは、グローバルの投資企業であるArtesian、エネルギー分野での投資企業であるRiverstone Venturesをリードインベスターとして、Chaos Ventures(ニューヨーク)、Bandera Capital(オーストラリア)、SDGx Ventures(シンガポール)などのVC、また複数のオーストラリアの気候テックの投資家が参画している。

オーストラリア革新材料研究所で10年間研究された技術

Siconaは2019年にオーストラリアで設立されたベンチャー企業だ。技術の出自はWollongong大学にあるオーストラリア革新材料研究所(The Australian Institute for Innovative Materials (AIIM))であり、同研究所で10年間研究された技術が元になっている。

Siconaは、従来のリチウムイオン電池のカーボン負極を代替する、シリコン-グラファイト複合電池のアノード、そしてバインダープロセス技術と材料を商品化している。

同社によると、Siconaの開発したシリコン-グラファイト複合負極材料を使うことで、従来のグラファイトのみの負極材を使った場合と比較して、電池にして50%以上のエネルギー密度向上が見込めるという。

独自開発の自己修復性ポリマーバインダー

シリコンベースの負極材に取り組む企業は数多く存在しており、シリコンを使うことによるエネルギー密度の向上が見込める反面、シリコンが抱える体積膨張・収縮の問題に対してアプローチは様々だ。

Siconaのアプローチは、コストが高くなってしまう物理的構造がより少ない歪みでリチウムイオンを貯蔵できるシリコンナノワイヤーを使わず、主には独自に開発した自己修復性を持つポリマーバインダーを使ってこの問題を解決しようとしている。このポリマーバインダーは、3Dネットワーク構造を持ち、導電性が高いものとなっている。

同社の主張では、競合するSila Nanotechnologiesや、Enevate、OneDらが開発するシリコン負極よりも、スペック・生産工程のシンプルさで優れているとしている。

また、アノードを製造する際には、電極表面と電解質の間の安定性を高めるために二重コーティングも施されているようだ。

パイロット生産工場の稼働へ向けて

同社は、今回の資金調達を元に、次のマイルストンとしてパイロット生産工場を試運転していくことを挙げている。マイルストンで置いているパイロット生産規模は1.5t。パイロット生産したサンプル材料を世界の電池メーカーへ提供し、大規模な電池試験プログラムを実施していく。

 

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ー 技術アナリストの目 -
シリコンアノード(またはシリコン・グラファイト複合アノード)に関する動きが各社で加速してきており、先行する企業はすでに商業プラント稼働までしていますが、その中でSiconaは後発に位置しています。しかし、同社は競合よりもエネルギー密度の点で優れ、生産プロセスがシンプルなためコストが下げられると主張しており、今後、パイロットプラントでの生産により実際に実証されると、更に資金が集まってくると想定されます。

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