ドイツの急速充電システムを開発・提供しているADS-TEC Energyが、特定目的買収会社のEuropean Sustainable Growth Acquisition Corpと合併し、米国新興市場のナスダックに上場することを発表した。

モジュラ―型超高速充電プラットフォーム

ADS-TEC Energyは、ADS-TEC Holding GmbHの子会社であり、このHoldingが61%、そしてBOSCH Thermotechnik GmbHが39%の株式を保有している企業である。

ADS-TEC Energyはリチウムイオン電池を使ったストレージソリューション、そしてエネルギー管理システムを含む電気自動車用バッテリー向け急速充電システムを開発・提供している。

同社の急速充電システムは、電力側での追加のインフラストラクチャなしで、既存の電力グリッドにおいて、超高速充電(最大320kW)を可能にすることができる。蓄電池の電力容量は140KWhで、1つないしは2つの充電ステーションで構成されるモジュール型急速充電プラットフォームだ。

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同社はこう述べている。

「これは、タイカンでさえ現在処理できる量を超えています。Erfurt(ドイツの地名)で実証されたように、連続した充電プロセスでも、出力は一定のままです。」

この急速充電プラットフォームは、超高速充電対応であることに加え、必要な設置面積が小さくて済むことが1つの特徴として挙げられる。同社によると、中電圧システムを備えた同等の急速充電システムは10m2程度の設置面積が必要であるが、同社のシステムでは必要な面積がわずか16%(約1.6m2)で済む。

このコンパクトサイズが可能となっている背景には、蓄電池部分と充電ステーションを分離した設計にしていることが要因だ。HPCブースターと言われる蓄電池部分が上述の1.6m2の面積にあたり、ケーブルでHPCディスペンサー(充電ステーション)に繋げる。ディスペンサー部分は店舗や施設の駐車場などに置くが、最低限の充電装置部分だけで良い。

HPCブースターは、400Vの主電源から最大200m以内の位置に設置することができ、ディスペンサーはブースターとの距離が最大100m以内の位置に設置する。

これまで充電インフラが設置されていなかった都心部のエリアにあるスーパーマーケット、駐車場、ショッピングセンター、パブリックスペースなどの空きスペースや、遠隔地、農村地域などの地域・セグメントに超高速充電を導入することを想定している。

すでにこの充電ステーションは数百台が市場で稼働していることを、同社は明らかにしている。

時価総額は約630億円

合併後の時価総額は約5億8000万ドル(約630億円)となる見通しで、PIPEで1億5600万ドル(約170億円)の資金を調達することになるという。PIPEの投資家には、APG、Invesco、Polar Structure、Swedbank Roburなどのファンドが参画する。

この一連の取引で得られる資金の大部分は、ADS-TEC Energyの充電プラットフォームの開発を加速し、米国とヨーロッパへの市場リーチを拡大するために使用される。

SPACの取引は2021年第4四半期に完了する予定となっている。

 

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ー 技術アナリストの目 -
欧州は完全に100%電気自動車での競争に国を挙げて舵を切っており、充電インフラの整備は今まで以上に求められています。先日、ドイツ自動車産業連合会はEU加盟国における公共充電施設の数は合計32万箇所と発表がありました。「欧州委員会が新車登録を認めるのは将来的にEVのみとする意向ならば、欧州委員会は欧州全体での充電インフラ整備を考慮しなければならない」とコメントをしています。そうしたことを背景に、欧州でも急速充電インフラ企業のSPACとなりました。

【世界の急速充電技術に興味のある方】

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参考文献:

1) ドイツ自動車産業連合会、欧州各国の公共充電インフラのランキングを発表, JETRO