米国マサチューセッツのベンチャー企業であるエネルギー貯蔵向け電池を開発するAmbri Inc.が、144m$(約157億円)の資金調達を実施したことを8月9日に発表した。

今回の資金調達は、インドの大手財閥Reliance Industriesの完全子会社であるReliance New Energy Solar Ltdをリードインベスターとして、Paulson & Co. Inc.,、そしてAmbriの最大の株式保有者であるビルゲイツ、新規投資家としてFortistar、Goehring & Rozencwajg Associates、海外特化型脱炭素エネルギーファンドJapan Energy Fundらも参画している。

MIT発のスピンオフベンチャー

Ambriは2010年に米国マサチューセッツで設立されたベンチャー企業だ。

技術の出自はMITのGroup Sadoway Labであり、Donald Sadoway教授がAmbriの現CTOであるDavid Bradwell氏と液体金属電池の研究を行っていたことから始まる。(なお、Donald Sadoway教授は現在もAmbriのチーフサイエンティフィックアドバイザー・取締役を務めている)

会社設立時点から、ビルゲイツがシードマネーを提供しており、他にもフランス大手エネルギー会社Total SAもシードで入っている。

液体金属電池を開発している

Ambriが開発している電池は、「液体金属電池」というものだ。

この液体金属電池は、負極に液体カルシウム合金、正極にアンチモンの固体粒子、溶融塩電解質で構成されている。上下に電極があり、溶融塩電解質を挟む構造となっている。

室温では電極も電解質も固体状となっており、非導電性であるが、電極金属と電解質塩を所定の容器に加え、500℃等の高温に加熱すると、材料は溶けてきれいな液体層になり、電極と電解質を形成する。3つの材料(正極、負極、電解質)の密度と非混和性の違いにより、自然に3つの異なる層に落ち着き、バッテリーが動作しても分離したままとなる。

このように材料の特性によって3つの層を形成することから、摩耗しやすいメンブレンやセパレーターも不要となる。

この電池の特徴であるが、基本的にはAmbriが目指しているのは、大容量で、安全で、安価、というエネルギーストレージ用蓄電池に求められる性能を実現しようとしている。コバルトなどの高価な原材料を使わないため、LIBで主流のNMCリチウムイオンセルの電極材料の1/3のコストになるという。上述の様にメンブレンやセパレーターの部材コストも削減することもできる。また、あらゆる気候条件で安全に動作でき、劣化を最小限に抑えて20年以上持続することを目標に開発が進められている。

Ambriのバッテリーは、2023年以降に商業運転を開始する大規模プロジェクトの顧客を確保しているという。

インドのリライアンスが生産パートナー

また今回リードインベスターとして参画しているが、インドの財閥グループであるリライアンスインダストリーズの子会社であるReliance New Energy Solarが、インドでAmbriのバッテリーを開発・製造するための戦略的パートナーとして選ばれている。

今回リライアンスが出資をしてAmbriと提携した背景は、リライアンスが2035年までにネットゼロカーボン企業になるという目標を掲げており、その一環でインドのグジャラート州にあるJamnagarに、「Dhirubhai Ambaniグリーンエナジーギガコンプレックス」という再生可能エネルギー製品に関する一大工場開発を行っていることにある。

このギガコンプレックスでは、太陽光発電ユニット、エネルギー貯蔵用バッテリー、燃料電池、およびグリーン水素を製造する電解槽ユニットなどを生産する工場を複数建設することになっており、将来、Ambriのバッテリーもここで生産される見通しだ。

同社HPはこちら


ー 技術アナリストの目 -
Ambriは2010年代から注目され、期待されていたベンチャー企業ですが、2015年前後で製品ローンチを想定し資金調達を行い組織拡大をしていたところ、製品開発が上手くいかず、一度社員を大量解雇して再度技術開発フェーズとなって活動を続けていました。今回、これまでとは桁が変わる資金調達を行っており、ようやく実証が上手くいき、商業化に向けたフェーズが変わったことを示唆しています。

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参考文献:

1) Magnesium–Antimony Liquid Metal Battery for Stationary Energy Storage David J. Bradwell, Hojong Kim, Aislinn H. C. Sirk, and Donald R. Sadoway
Journal of the American Chemical Society 2012 134 (4), 1895-1897, DOI: 10.1021/ja209759s

2) A battery made of molten metals, New battery may offer low-cost, long-lasting storage for the grid. Nancy W. Stauffer | MIT Energy Initiative
Publication Date:January 12, 2016