美容ブランド企業のイルマキアージュ(Ilmakiage)が、イスラエルのコンピュータービジョンベンチャー企業のVoyage81を買収したことが、8月18日に発表された。

美容・健康×テクノロジーで技術を探していたイルマキアージュ

2018年に米国で設立されたイルマキアージュは、美容・化粧品のブランドを展開しているが、テクノロジー指向の企業である。同社は美容・健康領域で活用可能な技術を探していたという。

イルマキアージュは2019年にもベンチャー企業を買収している。高度な能動的機械学習アルゴリズムを開発するNeoWizeという企業で、NeoWizeのAI主導のデータサイエンス支援ソリューションによって、消費者のオンラインでの消費行動を最適化することを狙っている。

今回の買収はNeoWizeに続く2社目の買収となる。

イルマキアージュは、これまでに数十社のコンピュータービジョンベンチャー企業と会ってきたが、美容業界に適合した技術であり、同社の目標を満たす優れた技術を見つけることができていなかったた。今回、Voyage81を見つけたことで買収に繋がった。

Voyage81のコンピューター・ビジョンのチーム(半数がPhD)は、イルマキアージュのデータサイエンスおよびマッチング・アルゴリズムのチームに統合され、Voyage81の創設メンバーはイルマキアージュの経営陣に加わる。

ハイパースペクトルセンシングのVoyage81

Voyage81は2019年にイスラエルで設立されたベンチャー企業だ。ハイパースペクトルイメージングシステム(HIS)の技術を開発している。

ハイパースペクトルイメージングとは、複数の波長帯を、同時に高分解能で認識することができるハイエンドセンシング技術である。通常のRGBで認識できないような微妙な色の違いや、物質の状態などが判定できる。

先日もベルギーのハイパースペクトルセンシングのベンチャー企業Spectricityが、資金調達を行うなど、今後の応用が期待されている分野だ。

参考:ハイパースペクトルセンシングのSpectricityがシリーズBで約17億円の資金を調達

通常はハイパースペクトルセンシングを行うには、高感度のハイパースペクトルカメラが必要になる。しかしVoyage81はソフトウェアアプローチを取っており、特殊なカメラは必要ない。同社が開発した独自のアルゴリズムは、既存のスマートフォンカメラで撮影されたRGB画像から31チャンネルのハイパースペクトル情報を98%の精度で抽出することができる、拡張性の高い技術だ。

新しいオンライン美容品購入体験の実現を狙う

Voyage81の技術によって、スマートフォンのカメラを使って、肌や髪の毛の特徴のマッピングと分析、顔面の血流の検知、メラニンとヘモグロビンのマップの生成を行うことができるようになる。

イルマキアージュが狙うのは、ユーザー個人のスマートフォンのカメラを活用して、ほかにないオンライン・マッチング能力を提供できるようにすることだ。

(補足)筆者が想定するに、美容・化粧品の購入ユーザー個人の肌の状態や髪の状態などから、その時に最適な美容・化粧品がレコメンドされるような使い方になると考えられる。

イルマキアージュは、Voyage81の技術は当社の数千万人のユーザーと顧客にメリットをもたらす、と述べている。

 

Voyage81のHPはこちら


ー 技術アナリストの目 -
将来、健康・ヘルスケア領域で活用されることも期待されているハイパースペクトルセンシングの技術ですが、まさか美容・化粧品という領域で、ユーザーの購買行動を最適化するために使う、という形で応用展開されるとは驚きました。イルマキアージュも出資ではなく買収に踏み切っていることから、この技術を使うことに対して本気であり、コミットメントしています。今後の使われ方は化粧品業界には大変参考になるでしょう。

【世界の生体センシング技術に興味がある方】

世界の生体センシング技術動向、ベンチャー企業や大学研究機関の優れた技術の調査、ハイパースペクトルセンシングの技術動向調査などに興味がある方はこちらも参考。

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